第12話 存在を消された男
「(ゼロ殿・・・・・・・・・大丈夫なのだろうか)」
現場の一部始終を目にしていた設楽は内心ヒヤヒヤして居た。ゼロがゼーレと戦い初めて、既に三時間以上経過している。今回のサーバーメンテナンスは6時間。メディアを切り離し本体の方は復旧を始めて居るものの、虚空にゼロが消えてかなり経つ。外傷は無くともゲームとリンクしていた神経系にはダメージが入っている。そんな状態で消えた彼が心配だ。
すると、先ほどゼロが消えていった空間—————増設されていたハードディスクの前の空間にピッと切れ目が入った。事態の変化に気付いた者たちからどよめきが上がる。
そしてその隙間から禍々しい鉤爪が覗くと、メキメキメキ・・・・・という音とともに切れ目がこじ開けられ、一人の青年を引きずるように抱えたゼロが姿を現した。
「ゼロ様!!」
「ゼーレは、ゼーレはどうなりました?!」
「ゼーレなら私が仕留めました」
這い出たゼロは手に持っていた青年を乱暴に放り投げた。ドサッという音とともにその人物は転がる。
「な?!こ、これは・・・・・・・・・」
「これがゼーレの正体です」
転がった青年はゼーレを大人にしたような感じだった。白いシャツにスラックスを穿き、あごひげが無造作に生えた青年。ぱっと見くたびれたおっさんと形容できそうな風貌の男が、あのゲームの世界に入り込んでいたとは思えない。
「恐らくコイツが“稲葉光輝”かと思われます」
「そうか、この男が・・・・・・・・ゼロ殿、なぜこの男がそのままゲームの世界に入っていると?」
「戸籍情報さえ消えていると言う事実ですね」
「むむ?」
床に倒れ込んだ男「稲葉光輝」の顔を見た設楽が唸った。「レジェンドソードファンタジー」のアカウント情報に依れば、稲葉は鳥羽市のアパートに住んでいたはずだった。しかし鳥羽市役所に問い合わせたところ、稲葉の戸籍が見当たらないということが発覚した。彼の関係者を当たっても彼のことを覚えている者はおらず、その消息はおろか生まれすら不明な男だった。
「存在ごと消されたと考えればつじつまが合うのです。戸籍情報を突然抹消されるなんて事、普通は考えられませんからね。それこそ、裏社会の人間に通じるようになって消されたか、文字通り存在ごと居なくなったと考えるべきか」
しかし、とゼロは告げる。
「裏社会に通じるようになったとすれば、それこそこのゲームのアカウントさえ消えるはずです。こういった個人情報を残しておくと言うことは、あなたのような警察の手が入るリスクとなりますから。そういった形跡が無いと言うことは、何者かがこの稲葉の存在を無理矢理削り取ったためと考えられます。アカウント情報が残っていたのも、恐らく“ゼーレ”というキャラクターの大本となった存在“稲葉光輝”が居たことを名前だけでも残しておく必要があったのでしょう」
「そんなことを・・・・・・・憶測で言っているんじゃありませんか?」
「普通に考えれば解ると思いますがねぇ」
なぜそんなこともわからんのか、とゼロは言いたげだ。彼は魔族の中では知能が高い部類に入る「龍人」。流石に「エルフ」程では無いが、人間などよりも数倍IQが高い。それこそ常人には考えられないレベルに。
「まあ、ひとまずは此奴を署に連れて行かなければですな」
そう言って、設楽は懐からスマホを取り出してコールをかけた。一先ず事件の元凶は叩いた。今度はこれを解き明かしていくところだ。
設楽がスマホを耳にカザしている間に、ゼロは口の中でつぶやいた。
「こちら、設楽だ。“レジェンドソードファンタジー不正プレイヤーの件”、その元凶と思われる人物を確保した。回収を頼む」
「ただでは
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