第11話 「リアル」
「くっ・・・・・・・・・・・自分のフィールドに引きずり込んだからってなんだ!!」
稲葉はジャキンとアサルトライフルを構え直した。それを見たゼロはバサリと腕翼をはためかせ、稲葉に迫ってきた。稲葉はそれを迎撃すべく、構えたアサルトライフルを唸らせる。
「喰らえ!!」
ダダダダダッ!!と連続して弾丸が発せられゼロに襲いかかる。だがゼロはスイスイといとも容易く避けながらなおも接近してくる。
「ぐあああっ!!何でだ!?なんで当たらない?!」
「さあ、考えてみな」
ゼロはついに稲葉の元にたどり着くと、稲葉を蹴り倒した。弾丸が当たらない事に意を呈する稲葉に、ゼロは大きく翼をはためかせて跳び上がり、両腕翼を叩きつけてきた。
「くっ・・・・・・・・」
稲葉はとっさに身をひねって躱そうとするが、ズガァアアアアン!!と叩きつけられた余波が稲葉をめくり上げる。稲葉はまるで現実の様に吹き飛ばされた。
「ぐああああ!!」
めくり上がった岩盤に打ち据えられた稲葉は悲鳴を上げながら転がった。そこにゼロが両腕翼を折りたたんで迫り来る。
「ち、畜生!!」
稲葉はどうにか立ち上がり、ダダダダダッ!!とアサルトライフルを唸らせるが、ゼロは身をひねって回避する。さらに発砲を重ねるが、それも腕翼を広げガードされてしまう。キンキンキン、と音がして明らかにヘッドショット判定になっていない。絶対に当たる位置なのに仕留められないゼロに、稲葉は疑問を口にせざるを得ない。
「なんで、なんでだ!?何で弾が当たらないんだ!!何でヘッドショットにならないんだ!!」
「お前、随分“ゲームの世界”に入り浸っていたみたいだな!!」
そんな稲葉をゼロは嘲笑する。
「なんで当たらないかって?それはお前が下手くそだからだよ!!ゲームの世界じゃ相手は身をひねることもないし、ましてやこうやって防ぐわけが無い!!———————当たり前だよな?どこに当ててもクリティカル判定になるような“スキル”に、絶対に相手に索敵されないような“スキル”、更に数値さえ上回ればダメージを抑えられる“ステータス”なんて、現実には無い!!そもそもそれすら”チート”に頼っていたお前に、銃器が扱えるわけがないだろうが!!」
「現実・・・・・・・俺が”チート”だって!?」
信じられない、と稲葉は表情をこわばらせた。
「ふざけるな!!最初はLSFの世界に来たと思っていた。だけど実際に生活して見ると解った!!これが現実だって!!これがゲームの世界なわけがあるか!!」
「ゲームの世界だからそう言ってんだよ!!」
ゼロは荒々しく腕翼を振り回しながら激昂した。
「お前にとってはそうかもしれねぇが、俺が見た世界からはお前はゲームの中に入り込んでいるんだよ!!ゲームの中に入り込んで、害をまき散らしているんだ!!解るか?お前は英雄でもプロゲーマーでも何でも無い、糞にも失礼なほどの糞チーターなんだよ!!」
「・・・・・・・・・・ッ!!」
ゼロが口にした「チーター」と言う言葉。ラノベでは「チート」という言葉自体は肯定的な意味で使われることが多いが、それは比喩的な意味を含んでいる。その実「イカサマ」だとか「八百長」だとか、そういったズルいという意味で使われはずの言葉なのだ。そのため、この「チーター」と言う言葉はそう言うネガティブな意味を思い起こさせるため、彼らはこの言葉を嫌う。
「実際どうなんだ!!お前は自覚が無いのか!!引き金を引けば当たるし、当たれば勝手に弱点を狙ったことになっていて、それが現実だと思っているのか!!」
「こ、こっちに来るなぁあああああああ!!」
半ばやけになった稲葉は、アサルトライフルを乱射しながら叫んだ。
「お前こそ何なんだよ!!なんでNPCのクセに話しかけてくるんだ!!チートとか、ゲームの中に入ってきただとか、訳わかんねぇよ!!大体、魔族のくせに小難しい事を言いやがって——————」
「それが俺たち“魔族”に対する認識かッ!!」
「ッ!?」
先ほど以上に殺気と、そして怒りの色をにじませるゼロの叫びに稲葉は思わず怯んでしまった。その声色はSEのボイスなどとは段違いの、リアルな怒りをひしひしと感じ取った。
「テメェら異世界人共はいつもそうだ!!俺たち魔族を自分よりも下だと見下しやがって!!女神とやらに魅入られたのがそんなに誇らしいか!!」
「う、うわぁあああああああああああああ!!」
ゼロの気迫に押された稲葉は、アサルトライフルを放り捨てて逃げ出した。目の前に居る存在が余りにも怖い。今まで倒してきたモンスターよりも、バトルロイヤルでなぎ倒してきた冒険者たちよりも。家一つ分よりも大きいモンスターにさえ恐怖を抱かなかったハズなのに、今は自分と同じぐらいの背丈しか無いゼロが怖くて仕方が無い。
そして稲葉は今更ながら気付いた。今まで自分がいた世界は「ただのゲームの中の世界」だということ。今、目の前に居る存在こそが
「うぐっ?!」
駆けだしてすぐに、稲葉は何かに躓いてこけてしまった。今までは足下に蔦が広がっていようが、火山の轍だろうが、難なく進んできたこの脚が、何かに躓いたのだ。これだけで、稲葉は嫌でもリアルを実感させられる。
「うそだ、こ、氷が・・・・・・・?!」
何やら冷たい感触と鋭い痛みに振り向くと、つま先から徐々に凍り付いていく自分の脚があった。どうやら足下に伸びていた氷柱が引っかかってしまったらしい。
「そう言えば、言い忘れてた」
「あ、あ・・・・・・・・・」
ゼロは稲葉の上に覆い被さるように立ち塞がると、大きく腕翼を広げた。黒地に赤いファーと縁取りがされたロングコートに、血のように赤黒い長髪、そして三日月形の瞳孔を持つ血のように赤い目。巨大な翼を持つそれは、「魔王」に見えた。
「さっきの立方体の奴だが・・・・・・・・俺の氷結能力を再現したかったらしい」
ズドン!!と大地を揺るがして、腕翼が稲葉に叩きつけられた。
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