第7話 異世界から見た「異世界」の認識
ゼロが「株式会社インタレスティングゲームズ」を訪れてから1週間後の事だった。
「すみません、このパーツは何のために入っているのですか」
「これは音響のための磁石ですね。これに電流を流すことで磁石が振動し、音を出すのです」
「成る程。しかし、それだけでゲームの中に没入できるとは思えませんが・・・・・・」
「うーむ・・・・・・それをお教えすることは・・・・・・いえ、わかりました」
ゼロが居るのは「インタレスティングゲームズ」ではなく、VRゴーグルの開発元「オーパーツ株式会社」の開発本部だ。本来ならば関係者以外出入り禁止の区画なのだが、今回特例と言うことで、ゼロとその監視役である設楽のみが入室を許可されていた。
「ゼロ殿。いったいあなたは何をしているんですか?」
「このVRゴーグルの解析と改良です」
ゼロは先日放り投げて壊してしまったVRゴーグルを分解し直していた。
「恐らくこのゴーグルは、単に視覚情報と聴覚情報に干渉しているだけではありません。恐らくそこから視覚と聴覚から脳に干渉し、ゲームのプログラム・ネットワークとつながるようになっています。・・・・・・・・・・冷静に考えると、とんでもない事をして居ますね」
「その通りではございますが・・・・・・ゼロ様は、異世界出身者なのですよね・・・・・?」
「ええ」
「ゼロ様はどうしてここまで理解が早いのですか?向こうの世界には無い文化ばかりだとおもっていたのですが・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・それは私も思っていました。ゼロ殿。いくら何でもあなたは我々の文化や技術に対し理解が早すぎます。どうしてそこまで早く覚え、理解できるのでしょうか」
オーパーツの職員や設楽の言うとおりだった。関係者のみ知る情報ではあるが、ゼロは彼らの言うとおり異世界人である。似たような技術があるのならば兎も角、そういった下地も無しに早々にこういった技術を受け入れ、あまつさえその専門的な部分へ着手し始めて居る。常人の理解速度では無い。
だが、ゼロはそんな設楽達に対して不機嫌そうに返した。
「では、逆に聞くが、お前達はどうして俺がこういったことを理解できないと考えている?」
「それは先ほども言いましたが、そういった技術の基盤が————————」
「そうじゃない。“こんな短時間にここまで学習するなんて、常人には出来ない”なんて思っていないだろうな?」
「「!!」」
ゼロに突っ込まれ、設楽達はギョッとしていた。彼らの見立ては、あくまでも「ただの人として」考えた場合のことだ。ゼロは違う。
「これは“転生者”共にも見られる傾向だが、どうもあんたらは俺たち“魔族”を下に見ている傾向にあるな。あんたらから見たら、俺たちはそんなに頭が悪そうに見えるのか?」
「いや、ちが・・・・・・・・・・」
「違わないだろう?“どうせコイツの思考能力は人と大差ないだろう”、“だからこの程度の事も理解できなくて当然だ”そんな風に認識していたはずだ。———————俺たち“龍人”はエルフに比べればそれほどでもないが、人間の数倍の知能指数はあるハズなんだがな」
設楽達は、無意識にゼロの頭脳を人間と同程度だと認識していた。血のように赤く三日月形の瞳、巨大な腕翼・・・・・・そういった異形の姿でありながら会話は出来るが、所詮その程度だと思っていた。
しかし、彼らの認識は甘かった。彼らが思っているよりも遥かに、ゼロの頭脳は秀でていた。すぐに「ゲーム」の文化や「チート」と言う概念の存在、さらに「VR」の技術の革新に至るまで、それらをすぐに吸収してしまったのだ。
設楽達の世界の人間は「魔族の知能は人間に劣る」と認識していることを、改めてゼロに証明してしまったのだ。
「む?すみません、少々電話に」
「あはい、どうぞどうぞ、お構いなく」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
設楽はポケットに入れていたスマホが震えだしたので、すかさず部屋の外に出て話をし始めた。
「設楽だ。どうだ?」
『・・・・・・・・・・はい、例の件について調査が済みましたので、報告致します』
例の件、と言うのは問題となっているプレイヤーであるゼーレのアカウント情報を探り、そこからこのゲームをプレイしている「ご本人」を割り出すという件だ。「レジェンドソードファンタジー」をプレイするに当たって、そのサーバーに「ユーザー登録」しプレイする際に「ログイン」しなければならない。その「ユーザー登録」にはユーザーIDだけでなく「名前」「生年月日」「メールアドレス」「クレジットカード情報」などを登録しなければならないのだ。
そしてゼロが最新のVRダイブ技術の勉強を行っている傍ら、警察の方でもゼーレの「本体」の追跡を行っていたのだ。ゲームにログインする際には、(正規な回線ならば)必ずIPアドレスが存在する。そのIPアドレスの所在からプレイヤー本人の所在地を割り出すことが出来るのだ。
『まず、順を追って説明致します。ゼーレとしてログインした際のIPアドレスの探知に成功、奴の本垢(メインアカウント)も割り出すことが出来ました。本垢の方のキャラ・・・・・“ルシフェル”でのログイン履歴と活動停止時期が合致する事が解りました』
「ほう。そのゼーレという奴はサブ垢だったというわけか。その本垢の方とはどんな因果関係がある?」
『ゼーレはレベルが最大まで上がっており、ほぼ全ての“スキル”を習得、“エスティンギルの剣”を所持していますが、本垢の方はそれらの条件を達成していることが明らかになっております。実際にルシフェルの方ではそのイベントとやらのクエストに参加し、習得している実績があります。データを見る限り、職業を除く全てのステータスが引き継がれていると考えてもよろしいかと』
「成る程。何らかのツールで不正にデータを移植したと言うことか。そんな事が出来るのかは置いておいて、益々許せん奴だ————————で、その“本人”はどうした?」
正直なところ、設楽にとってそんな情報はどうだっていい。要するに本人を捕まえて洗いざらい吐かせてしまえばいいのだ。どんなツールをつかったのかは、捕まえれば幾らでも調べられる。
そのはずだった。
『それが・・・・・・・・・・・何も無いんです』
「————————どういうことだ?」
設楽は電話相手の奇妙すぎる応えに困惑せざるを得ない。
『ですから・・・・・・・・何も無いんです。IPアドレス上で示された住所、さらに“ルシフェル”の方に登録された住所に行っても、ただの空き家で・・・・・・・かろうじて元々引いてあった回線のアドレスが残っていただけで、もぬけの殻なんです』
「——————————」
設楽は急に悪寒がしだした。誰も居ないなんてことは無いはずだ。「ルシフェル」だろうと「ゼーレ」だろうと、アカウントを登録するには必ず人が居るはずだ。その当の本人が居ないなんてことは、先ずあり得ない。
そしてもう一つ、設楽は背筋を凍らせる事実に感づいてしまった。
「(待て、いくら何でも俺たちが関わる前に上が調べていたはずだ。でなければ、今になって本人が居ないから捜査が進まない、なんてとんでもない事が発覚するわけが無い)」
その、おぞましい事実は。
「(上は本当に調べたのか?)」
もしかしたら、この「ルシフェル」と「ゼーレ」のアカウント主が警察に根回しして、捜査させないようにしているのかもしれない。それならば、今ここに居る自分たちも危ない。この事件をもみ消されるかもしれないのだから。
だけど、それ以外———————つまり、「魔法的な何らかの力が働いて、操作を阻害していた」なんて事があれば、下手をすればそれどころではない。この世の物理法則を根本から覆される、とんでもない事態が起きていることになるのだ。事実、目の前にゼロと名乗る異世界人がこの世界に降り立っているのをこの目で見ている。あり得ないと言い切れないのが恐ろしいのだ。
「解った。引き続き操作を続けろ。何か進展があったら、また報告しろ」
『承知しました』
設楽ははあ、とため息を吐いて通話を切った。頭を抱えながら部屋に戻ると、その様子を見たオーパーツの職員とゼロが話しかけてきた。
「設楽警部補。どうなさいました?」
「なにか事情が進展したのですか?」
「実は——————————」
設楽は二人に今聞いたことを簡潔に説明した。ゼーレには本来のアカウント「ルシフェル」が居たこと、その「ルシフェル」のステータスをほぼそのままゼーレが引き継いでいること、そしてその2つのアカウントの共通するプレイヤーが、文字通りの意味でこの世に居ないこと。
「そんなことが・・・・・・・それじゃあ、その事件は解決できないじゃないですか」
オーパーツの職員も頭を抱えていた。ゼロがここを訪れている事情は既にオーパーツ株式会社にも連絡されている。その協力捜査の一環として、本来社外秘であるVRゴーグルの構造をゼロに説明しているのだ。そしてこの事件が非常に解決困難である、最たる理由も勿論耳にししている。
「・・・・・・・・・・・・・成る程」
しかし、ゼロはその話を聞いて何か思い当たることがあるのか、何やら意味深に一人頷いていた。
「ゼロ殿、何か—————————」
「設楽警部補、急遽インタレスティング(ゲームズ)に連絡してください」
ゼロは毅然とした態度で告げた。
「中程度の戦闘フィールドを急遽
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