第2話 強盗撃退
あの後ゼロは管理人室で地図をプリントアウトしてもらい、それを頼りに交番に向こうことにした。現在地からそこそこ離れており、気長に歩いて行く。
「(しかし、この世界の道は似たようなものが多くてわかりにくいな・・・・・人通りも異常に多いし、本当にこんなところで生活できるのか?)」
向こうと比べて似たような建物ばかりで、しかもマップにない小道なんかも数多く存在する。向こうの世界だったら比較的建物が少なく、より規模も小さいので何とか出来るのだが・・・・
「ここか?近づくだけで開くドアなんて見たことないが・・・・・透明な素材を使っていたら、中が丸見えだろうに」
ゼロはシュウィーン、と開くドアをくぐり、カウンターの女に話しかけた。
「済みません、ここが交番で合っているでしょうか?」
「え?ここは“コンビニ”です。交番じゃないですよ」
「え?」
話しかけた女は青と白のストライプの制服を着ていた。カウンターの向こうにいるのだから受付嬢だと思ったのだが・・・・・・
「あの、私はここから来ました。道なりに行くとここに付くはずなのだが・・・・・・・・」
「ああ・・・・・・・これは逆ですね。ここはコンビニ、交番はこの建物の逆側にあります」
「—————————解りづらいな」
ゼロは思わず舌打ちした。元の世界と違い、似たような建物ばかりで非常に解りづらい。
「あの、よければタクシーを呼びましょうか?」
「タクシー?」
ゼロは聞き慣れない単語に首をかしげた。
「ええと・・・・・お金を払って指定した場所に連れて行ってくれるサービスのことです」
「成る程。馬車の様なものですか」
「馬車・・・・・・そ、そうですそうです!!ちなみにお金は・・・・・・」
「金は・・・・・・ああ、申し訳ありませんが」
「あっ・・・・・・そうですか」
女はややがっかりしたような様子だった。ゼロは知るよしもないが、コンビニは向こうの世界で言う「アイテムショップ」であるため、いい顔されないのは仕方が無いのだろう。
「まあ、場所が解っただけよしとしよう。有り難う御座いました」
「ありがとうござました~。申し訳ありません、お力になれなくて・・・・・・」
と、別れを告げて出て行こうとしたときだった。
「(・・・・・・・・・・・?コイツ、この世界の騎士か?いや、それにしては・・・・・)」
黒い目出し帽に黒のパーカー、黒のジーンズと全身黒づくめの男が息を荒くして入ってきた。肩からは大きめのバッグがかけられている。
「い、いらっしゃいま・・・・・・・・・・」
たまたま近くに居た同じ制服の女が引きつり気味に挨拶したときだった。
「コイツが死にたくなけりゃ金を出せ!!」
男が彼女に組み付いて、喉元に包丁を突きつけた。
「ご、強盗だ!!」
「ヒッ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・?」
ゼロは何が起きたのか、一瞬解らなかった。向こうの盗賊とあまりにも格好と手口が違う。しかし周りの反応を見てただならぬ事が起きている事だけはなんとなく予想が付いた。
「おい、女!!さっさと金を出せ!!同業者が死ぬのを見たいか!?」
「あ、えと・・・・・・」
「さっさと出せっつってんだよ!!」
「ひ、ひぃいい!!」
男に怒鳴られ、カウンターの女はレジをガチャガチャといじり始める。だが、焦りと恐怖からかおぼつかない。
「・・・・・・・・なあ、アンタ、何やってんだ?」
「(バッ・・・・・・)」
ゼロは男が何をしているのかわからないため、直接話をすることにした。周りの客はその行為に戦慄する。
「ああ?!何だテメェ!?これ以上近寄ると女が死ぬぞ!!」
「た、たすけ・・・・・・」
「黙れ!!」
ゼロは男の反応に苛立ち、更に問いただす。
「イライラすんな。だから何をしているのかと聞いているんだ」
「何って見て解るだろ!!金を寄越せって言ってんだよ!!」
「金を寄越せ・・・・・・・・・ああ、成る程。つまりお前は盗賊って事か」
ゼロはああ、と納得した。向こうの世界だったら「積荷を全部置いて行きな」が決まり文句だったため、男の言っていたことを理解しそびれていたのだ。
そして、そう気付いた後のゼロは
「だったら遠慮はいらんな」
男が気付くよりも前に、手元の包丁を蹴り上げた。
「が・・・・・・・ぎゃぁあああああ!!いてぇええええええええええ!!」
男は手首を蹴られた痛みに、思わず包丁を取り落とし女を解放する。
「うるさいな」
「アガッ!?」
ゼロは男が怯んだ隙に喉元に手を伸ばし、男の首を思いっきりつかんで持ち上げた。男は気道が塞がれ苦しみもだえる。
そして———————————
「とりあえずのびておけ」
ずだぁああん!!と床にたたき付けた。
「ガッ・・・・・・・・・・・」
男は頭を思いっきり打ったためか、短い悲鳴を上げて意識を失った。
「おい、コイツ・・・・・・・・・」
「やべーよ、強盗を返り討ちにしちまった・・・・・・・」
周りの客はゼロの大立ち回りに騒然となった。しかし、当の本人は意に介していなかった。ゼロは男にのしかかり近くの男性を手招きする。
「おい、そこのアンタ。自警団は呼ばないのか?」
「え?」
「自警団だよ、自警団。お前達が住んでいる地域には治安を維持する機関が無いのか?」
「じけい・・・・・・ああ、警察か!!」
男性はゼロの言うことがようやく解ったのか、スマホを取り出してどこかに連絡を取り始める。
「(あれはさっきの男が言っていた“スマホ”って奴か。あんな薄い物に何で話しかけているんだ・・・・・・・・?)」
ゼロは男性がスマホにしゃべりかけているのを不思議に思いながら、男の上に腰掛け続けていた。
「私、鳥羽警察署所属の“
後頭部を刈り上げた壮年の男性が警察手帳を見せながら名乗った。あの後警察が駆けつけ、伸びていた男を現行犯逮捕としてパトカーに運び込んでいた。
「いいえ。礼には及びません・・・・・・・・ところでですが、“交番”というところはどちらにございまますか?私、そちらへ向かうところなのですが・・・・」
「“交番”・・・・・・・警察署でもよろしいでしょうか?」
「?・・・・・・・・・交番とはまた違うのでしょうか?」
ゼロは交番と警察署の因果関係に首をかしげた。
「簡単に言えば、交番は警察署の支部にあたるものですね。警察署から数人が交代でそこの担当をするのですが・・・・・・・・・成る程、警察のことをご存じない、と・・・・」
設楽は不思議そうにゼロを見ていた。設楽の目にはぱっと見、黒髪ロングの長ランのヤンキーにしか見えない。つまり普通の日本国民にしか見えないのだ。そんな少年が警察の関係性を欠片も知らないというのは、流石に不思議でしかなかった。
「・・・・・・・・・・どちらにしろ、事情聴取を受けていただくため、警察署には来ていただきます。その際に詳しいお話を伺いましょう」
「ありがとうございます」
ゼロは礼儀正しく、ぺこりと頭を下げた。
設楽は知らなかった。このゼロとの出会いにより、後に大きな事件に巻き込まれていく事を。
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