第1章 First Invasion

第1話 鳥羽市上空からコンニチワ

 ここは、異世界の町の一つ「鳥羽市」。さして人口は多くはないが、それでも「市」という地方自治体の形態を成していることからそこそこの数字にはなっている。


 そんな鳥羽市のとある高校は昼休みの時間だった。弁当を箸でつつきながら友達と談笑したり、机に突っ伏して寝ていたり、教室の隅でスマホをいじっていたり、人それぞれの行動を取っている。


「ねえ、当司君。さっきから何を読んでるの?」


「ああ。“ヘラヘラ静画”だよ。これに新着のコミカライズされたノベルが掲載されるんだ」


「えーなに?どういうやつを読んでいるの?」


 当司と呼ばれた少年は、高校生の少女—————紗綾にスマホの画面を見せた。


「“異世界へ来たらチート魔力を手に入れてたんだけどwww”・・・・・・何これ」


「最近流行の“異世界転生”って奴だよ。向こうの世界の魔導師に呼び出されて、勝手に魔王討伐の任務を任された主人公が、実は誰にも持ち得ない程の膨大な魔力を持っていたって話だ」


「ええ・・・・・こんなの読んでるの?趣味悪・・・・・・」


「趣味悪いって言うな!!良いじゃないか“異世界転生”!!こっちの世界じゃ出来ないことが出来て、しかも女の子達にモテモテ!!まさに夢の楽園じゃないか!!」


「もう・・・・・私って言う女が居るのに・・・・・・・・・」


 むー、と紗綾は頬を膨らませる・・・・・・と、教室の窓からフッと外を見たとき、奇妙なものが見えた。


「あれ?ねえ、アレ何?」


「ん?なんか見えたか?」


 紗綾が外を指さすと、当司もそれに倣って視線を向ける。彼女らが視線を向けた先には、何やら空間にヒビが入り、そこから宇宙のような漆黒の闇が見えていた。


 が、それを見ても当司は首をかしげていた。


「———————なんか鳥が飛んでいるみたいだけど」


「え?あのヒビみたいなのが見えないの?!」


「いや、あの雲はどーみてもヒビには見えないけど・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・何、何なのアレ・・・・・」


 外で遊んでいる者達も、誰一人気付かない。この平穏な鳥羽市の上空にある石津で奇妙な「何か」。それに気付いているのは紗綾だけだった。










「まさか・・・・・・あの向こうには————————」

















「(さて、こっちに来たはいいものの、どうするか・・・・・・)」


 どこかのマンションの屋上でうーむ、とゼロは腕を組んで唸っていた。「深淵の龍紋」の能力を生かして強引に異世界への入り口をこじ開けて来たが、それ以降何をするかは考えていなかった。


 というのも、向こうとこちらの文明も物理法則も全く異なるため、前準備する事に意味が無いと踏んでいた。寧ろ下手に支度をしてそれが徒となる方が危険なのだ。普通なら準備をするところを敢えてせずに進むのも、この「異世界」に向こうの常識が通じないことが大きい。


「流石にこの格好は目立つからな・・・・・・こうするか」


 ゼロはバサリと翼で全身を覆うと、バリバリバリッ!!と空間にヒビが入る音を鳴り響かせた。赤い髪に黒いメッシュが入る細身の青年の体から、やや赤黒い長髪の学生に姿を変える。


「翼は・・・・・・とりあえずこうしておくか」


 背中に備えた腕翼は、一旦詰め襟の長ランに化けさせることにした。元々ゼロのいた世界のとある帝国の軍服をモチーフにしているが、ゼロの本来の格好から比べれば少しは擬態できているだろう。


「(一先ず、情報収集するか)」


 ゼロは辺りを見回し、自分の居る建物の壁を触る。魔力を流し込み、その構造を分析するのだ。


「(魔力の反応はほぼ無し。石と比べると強度は下がるが、内部に鉄の芯を組み込むことで“骨組み”を作ることで建物自体の倒壊を防いでいると言うことか)」


 手を放し、今度は金属の扉の前に立つ。ドアノブの鍵をガチャリ回し、ギィ・・・・・・とドアノブに手をかけて開けた。


「(鍵の構造は向こうとはそう変わらない。このまま内部に侵入することも出来るが・・・・・)」


 と、思案していたときだった。


「そこのきみ、何をしているのかね?」


「・・・・・・・・・・・・・?」


 ちょうど階下から上がってきた警備員に見つかってしまった。


「ここは立入禁止のはずだ。どうやって入ったんだ」


「————————私は“異世界”からやってきました。一応一国の王を務めさせていただいている身ではありますが・・・・・・」


「おや、随分礼儀正しいじゃないか。ぱっと見ヤンキーかと思ったよ。・・・・・・でも、異世界ってなんだ?」


「(“異世界”という言葉が通じない・・・・・向こうなら“転生者”としてさほど珍しくはないが・・・・・)」


 警備員の反応から、ゼロはこっちの世界での「異世界人」がどう見えるのかを推測した。どうやら向こうと違ってこっちに流れてくる人間は少数のようだ。誰もが「異世界の英雄」として崇められている向こうとは違い、こちらでは非常に珍しいのだろう。


「一先ず海外の人かな?だとしたら“交番”に行くと良いよ。マップで検索すれば出るでしょ?」


「交番?マップで検索・・・・・・・?」


「おや、もしかしてスマホを持っていないのかい?だったら仕方ないな。地図を出してくるから、管理人室の前に来てくれるかい?」


「(成る程、ここでは小型の情報端末を使っているのか。それを生命線としてここの国民達は生活している、と・・・・・・・・・)」


 向こうにはない技術や文化に戸惑いつつも、一先ずこの警備員の言葉に従おうとゼロは考えた。下手に自分で探索を進めるよりも安全だと判断し、警備員と共に階段を降りる。












こうして、ゼロは「異世界侵略」の第一歩を踏み出した。

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