ヴィジターキラー Another Dimension
戯言ユウ
前日譚
第0話 前日譚
異世界には二つの領域がある。天界と魔界。天界は人間達が暮らす領域、魔界は魔族やモンスターが棲まう領域。その魔界では、かつて栄華を誇っていた大国「アストライア王国」が覇権を握っていた。
だが、そのアストライア王国は一人の勇者に滅ぼされ、見る影もなかった。魔王に使えていた6人の幹部「六角」は散り散りになり、彼らが修めていた領土は分解され、ただ残ったのはボロボロになった魔王城と、その周辺地域の森林地帯だけだ。
そしてその魔王城のボロボロになった玉座に、一人の新たな魔王が座していた。
「おい、魔王!!」
ゴォオオオン、と扉が開かれ、4人の冒険者達が中に足を踏み入れる。
「かつて滅ぼされた“アストライア王国”の新たな魔王は、お前だな!!」
勇者は剣を魔王に向けて突きつける。数々のモンスターを打ち倒し、ここまで来た彼の目には勇ましさを感じさせる。
そしてそんな彼の前で、魔王は——————————
「どうするか・・・・・・あの村の発展は必須だが、そろそろ防衛拠点を・・・・・・」
デスクに肘を突き、顔をしかめていた。元々ここにデスクは存在しなかったが、新魔王が就任してから急遽設置した。
「暴虐の限りを尽くす魔王、貴様にこれ以上好きにはさせないぞ!!」
「んーーーーーー・・・・・・しかし両立させようにも人員が少なすぎる・・・・・どうしたことか・・・・・」
「だーーーーーーーーー!!話を聞け!!」
勇者はついにキレて、剣をガァン!!と床に投げつけた。
「何だ。俺は今後の戦略を立てるのに忙しいんだ。ただでさえ城の改修も出来ていないところなんだから・・・・・・要件なら後日にしてくれ。出来れば100年後ぐらいに」
「そんなに待っていられるか!!っていうか戦略を立てているだって!?なおさら帰るわけにはいかないな!!」
勇者はぶん投げた剣を拾い直して、再び構える。
「僕は“ハヤト”、勇者だ!!」
「・・・・・・・“ハヤト”?」
こちらに武器を構えながら名前を叫ぶ勇者。その五感に魔王は眉をひそめる。
「私は“アリーシャ”!!この“灼眼”と呼ばれたこの一番槍が——————」
と、魔導師なのに一番槍を自傷する女が名乗ろうとした時だった。
ゴジャアッ!!と勇者が目の前で叩き潰された。
「「「———————————!?」」」
「アッ・・・・・・・・ガッ・・・・・・・!?」
いつの間にか、目の前に魔王がいた。 赤黒く所々黒いメッシュが目立つ特徴的な髪、黒地に赤いファーが目立つコート、それに包まれる細身の体。見た目ならば華奢な青年の背中から、巨人化と見まごうほどの腕が勇者を上から押さえつけている。しかもただの腕ではなく、よく見ると腕のように発達した翼だと解る。
「本当ならばお引き取り願うところだが——————“転生者”が相手だって言うならば、話は別だ」
「うっ・・・・・・どうにか、逃げ出さなければ・・・・・・」
と、勇者が抜け出そうともがく。だが、それを魔王は許さない。
「死ね」
直後、押さえつけた勇者を城の床ごとぶち抜いた。
「嘘だろ・・・・・・“異世界の英雄”だぞ・・・・・・」
「“剣聖”の称号をほしいままにしたハヤトが・・・・・・・」
「とってつけたような解説は止めろ。余計に薄っぺらく聞こえるぞ」
初めて口を開いた戦士と弓使いに、魔王は床から腕翼を引き抜きながらドスの利いた声で言い聞かせる。
「さっさと帰れ。ただでさえ俺の城に汚らわしい汚れが付いたんだ。ついでに掃除してもいいんだぞ?」
「「「ご、ごめんなさーーーーーーーーい!!」」」
アリーシャと名乗った女を含めた3人は、そのまま一目散に城を出て行った。圧倒的な「転生者」でさえ敵わない相手に、自分たちに勝ち目が無いと感じたのだろう。
「フン、さしずめ“余所者の威を駆る雑魚共”と言ったところか」
魔王はバサリ、と腕翼をはためかせたのち、背中に折りたたんだ。禍々しい鉤爪の付いた手の部分が肩のところに収まり、さながら肩当てのように見える。
「ゼロ様、あまり暴れられますと城が壊れてしまいます」
「悪かったなライラ。ああいう“転生者”のガキを見ると殺意が湧いてきてな」
部屋の奥からズルズルと這い出てきたのは、ラミアの女性だ。上半身こそ水色の髪の女性だが、下半身は大蛇のような長い体をしていた。
「しかし、本当に頭が痛い。せっかく外交を結べたのに、その国を滅ぼされるなんて・・・・・」
「別の国では国王に“転生者”が成り代わっていて、実質的に掌握されていたりもしますし・・・・・本当にどうしましょうか」
彼らが頭を痛めていたのは、「転生者」らによる度重なる妨害だ。こんな風に自分の元にやってくるならまだ可愛い方で、ライラが言ったとおり魔界の王国一つが乗っ取られていたり、あげくにはたった一人の「転生者」に取引先を滅ぼされたりしている。しかもそんなことが日常茶飯事で、アストライア王国を再興しようとしても思うように進まないのだ。
「・・・・・・・・・・・・ライラ、やはりあの作戦を決行しよう」
「大丈夫なのですか?」
「今、うちがまだそこまで発展できていないのはある意味チャンスだ。規模が小さいと言うことは、それだけ損害が出ても被害が少ないと言うことだ。流れに乗っているときにくじかれるのが一番不味い」
「解りました。では、引き継ぎを」
魔王はデスクの上の書類をまとめ、部屋へと持ち帰り始める。
「俺は“異世界”へ行き、“転生者”がこっちに来るのを抑える手段を探す。悪いが、国王代理として預けさせてくれ」
彼は「グレイシア・ゼロ・ファーレンフリード」。かつてアストライア王国の魔王直属幹部「六角」の第六の角にして「氷帝」と呼ばれた龍人だ。
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