第4章 リベンジ ⑥
竜の雄叫びは辺りの空気が震わせた。その振動がビリビリと肌を叩く。
「ゴォォォオオオオオオッ!」
その猛る
「
「カリッカリに焼けたハンバーグになっちまうからな!」
当たらなくていい予感が当たったようだ。
クリフトンとレイモンドの二人は手にした盾を掲げ、竜の息(ドラゴンブレス)とやらに備える。くそ、こんなことなら剣士じゃなくて戦士を選ぶべきだったか?
「こっちだ、トカゲ野郎!」
「ちゃんと狙えよ、外したら痛えぞ!」
経験豊富なゴールドクラスの二人は、それぞれ
対して俺は迷っていた。彼らのように的を絞らせない為動き回るか、攻撃の一瞬を見極めて躱すことに専念するか――
結果動き出すことができず、後者を余儀なくされる。
「はぁぁあああああっ!」
アシェリーさんが駆けて跳ねた。四、五メートルはあろうかという竜が顎を開いた瞬間、地面が爆発したかと思うような踏出しで飛び跳ねたアシェリーさんは、目にも留まらぬ斬撃で
「ギシャアアアアッ!」
衝撃でのけぞる
更に驚いたことに、アシェリーさんはのけぞった
「やったぜ、姉さん!」
「マジかよ、
それを見て歓声を上げる二人だが――
「こんなあっさり斬れるほど、竜の鱗は柔じゃないよ。じゃなきゃとっくにアタシはドラゴンスレイヤーさ」
こともなげに着地したアシェリーさんが、手の中の剣に視線を落として答える。その刀身は月明かりを反射して輝いていた。血の汚れは確認できない。
加えて――
「グルルルルルル……」
倒れた
「――ナルミ」
アシェリーさんが
「はい」
「今のうちにレミリアへ戻れ。クリフ、レイ、あんたたちもだ。このトカゲと召喚陣はアタシがなんとかする」
「何言ってんだ、姉さん!」
「やっこさん、まだ元気そうじゃねえか!」
「悪いけどそう何度も誰を狙うかわからない
「……それに?」
申し訳ないのはこっちの方だ。俺に力があれば、彼女にこんな局面でゴメンなどと言わせずに済んだのに。情けないやら悔しいやらで食い下がることも出来ず、代わりに彼女の言葉の続きを促す。
「――さっきの男が言ってたろ。神気を感じるって……ありゃあ多分神器――セシリアのロザリオのことだ。奴の狙いが神器ならセシリアが危ない。ここはアタシが引き受けるから、ナルミはセシリアを助けに行ってくれ」
言われてはっとする。そうだ。セシリアだけでなく、イーヴァや神父、アシェリーさんもあのロザリオの輝き――アトラの力を神々しいと評した。それを感知していたのなら――
「……ナルミ。奴はおそらく魔人だ」
「魔人?」
聞き慣れない言葉にオウム返しに尋ねると、アシェリーさんが頷く。
「ああ、魔王を様と呼んでたからな……魔人は魔物の中でもアタシたち人間に近い、恐ろしい魔物さ。事と次第によっちゃ
アシェリーさんの瞳は、今にも起き上がりそうな
「わかりました。でも、アシェリーさんがいなかったらセシリアが悲しみます。
そう答える。俺の返事に、アシェリーさんはにやりと笑った。
「ヒヨッコが……ミスリルクラスにえらい注文つけてくれるじゃんか」
言いながら彼女は懐をまさぐり、片手で器用に小瓶を三つ取り出した。さっきギルドで見た物と同じもの――
「これ――」
「ケチなことは言ってられない。全力で追って、ぶっ倒れたらそいつを使え。意地でもセシリアに辿り着けよ」
「はい」
受け取って、クリフトンとレイモンドに一つずつ渡す。
「よし、トカゲが起き上がる前に行け。
「はい――アシェリーさん、また後で!」
決死の覚悟だろう彼女を裏切れない。俺は言いながら踵を返す。
「おう、ギルドで待ってな」
背中から彼女の返事が聞こえる。
「姉さん――あんたがそのトカゲを斬ったら、俺らがあんたの子分になってやるぜ!」
「だから気張れよ、イカした姉ちゃんのハンバーグは見たくねえからな!」
「顎で使ってやるから忘れんじゃねえぞ!」
それは冒険者同士の流儀なのだろうか、軽い調子の二人に、アシェリーさんも怒鳴り返す。
そして俺とクリフトン、レイモンドはレミリアに向かい全力で駆け出した。
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