第4章 リベンジ ④

 同時に森から夜空に飛び出す大きな影。位置的にそう森の深いところからじゃあない。多分あの広場だ。


 その巨大な影は月明かりの下、上空で旋回を始める。そのシルエットは鷹や鷲――猛禽のものと明らかに違った。サイズも形も、子供の頃に恐竜図鑑で見たプテラノドンを連想させるようなものだ。


「ありゃあ――翼竜ワイバーンか?」


「姉さん、こりゃあなんだろうな?」


「……翼竜ワイバーンの巨体でこんな森に巣を作るとは思えないし、こんな奴がこの森に居着いたってんなら目撃情報があってしかるべき――だが、ギルドにそんな情報は入っていない。状況的に推測できるのは召喚陣だな」


 苦々しい表情で上空を旋回する翼竜ワイバーンを睨みつけ、アシェリーさん。


「当たりでも大当たりでもない、超大当たりさ。ナルミが言った広場――おそらくそこが召喚陣だ。偶然出来た広場じゃなく、意図的に用意したんだろうな。森狼フォレストウルフ食人鬼オーガは召喚陣の試運転だったのかもな」


「召喚陣ってあれか、モンスターを別の場所から呼び出す邪法か」


「誰がなんのためにそんなことを」


「今から行けばわかるだろうさ。召喚陣はただモンスターを吐き出す便利なもんじゃない。召喚を実行する術士がいて、初めて機能するもんさ」


「じゃあそこに行って術士を押さえつけてやりゃあ依頼は達成ってことだな」


「よっしゃ、どんなアホが邪法なんて使ってんのか知らねえが、森全体を捜索するよか遙かに楽な仕事だぜ」


 アシェリーさんの言葉に、ゴールドコンビは大きく頷く。


「その、翼竜ワイバーンは放っておくんですか?」


 そう尋ねると、


「手持ちの装備じゃ上空のあいつを狩るのはちょいと難しい。奴が街に向かったとしても、街には食人鬼を警戒する衛兵や王宮騎士が出てる。そっちに任せた方がいい。騎士団には魔法を使う奴や弩弓があるからね」


「……なるほど」


「わかったら急ぐよ――あんなのに大量に湧かれちゃ笑えない」


「おう!」


「いつでも行けるぜ!」


 もう一度上空の翼竜ワイバーンを睨み、アシェリーさん。クリフトンとレイモンドが彼女の言葉に力強く頷く。


 俺はすぐに頷けなかった。アシェリーさんが楽勝で屠って見せた食人鬼オーガにギリギリだった俺が、彼女が顔をしかめるような状況で役に立てるのだろうか?


 そんな俺に気づいたのか、アシェリーさんが問いかけてくる。


「どうした、ナルミ」


「俺、着いて行って役に立てるか自信ないです」


「……怖いか?」


 俺の瞳を見据え、心の奥の本音を探るように、アシェリーさん。


「怖くないとは言い切れないかもしれません。でも、アシェリーさんたちの邪魔をするくらいなら、俺は行かない方がいいんじゃ」


「ヒヨッコのあんたに獅子奮迅の活躍なんか期待してねーから気にするな」


 割と覚悟して口にした言葉だが、思いのほか軽く返される。


「それとももう嫌か? 先に一人で街に帰るか?」


「――そんなこと!」


「わかってる。あんたはビビってもそう簡単に仲間を見捨てたりしねータイプだよ。マジで足引っ張るのが怖いんだろうさ。でもあんた、自分で思ってるより相当使えるぜ。だから怖くないなら着いてこい。そうだな……アタシの死角に気を張ってろ。アタシのピンチを救ったらそれだけで値千金の大活躍だぜ」


「違いねえ」


「自信持って行こうぜ、兄弟!」


 そう言って俺を励ますアシェリーさんとゴールドコンビ。俺は三人に頷いて返す。


「じゃあ行くぞ。先頭で痕跡を追うのはアタシだ。次がナルミ、レイ、クリフ。遅れるなよ」


 言ってアシェリーさんは駆けだした。颯爽と食人鬼オーガたちが出てきた森へ飛び込んでいく。


 何か考える暇も無い。俺は彼女の背を見失わないように全力で足を動かした。


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