第4章 リベンジ ③
「で、どうするよ、姉さん」
「油はあるが、こいつらを焼き尽くすほどはねえぜ。燃料代わりに枝葉でも集めるかい?」
全ての骸を一カ所に集めた二人がいう。
「いや、必要ない」
アシェリーさんはそう言うと、骸の山に手を向けて――
「《
指をスナップする。同時に地面から上空に向かってまばゆい光柱が立ち上った。純白の光はいくらか瞬いた後に霧散するように消え――そこには、奴らが身につけていたボロや得物だけが残っていた。
「やるな、姉さん」
「高位の聖魔法とは驚いたぜ」
その光景を目にした二人が口笛を吹く。
予想もしなかった出来事に驚いていると、アシェリーさんは小さい子をからかうように意地悪く笑った。
「驚いたか? アタシはセシリアぐらいの時には神官もしててね――剣の方が合うから今じゃ剣士を名乗ってるけど、神官としてもそこそこやれるんだぜ」
「にしても、今の一瞬でモンスターを焼き尽くすなんて」
「生きてるモンスターにはここまで効かないよ。もともと対アンデッドの魔法さ――死体処理に便利だから覚えたんだ。普通のモンスターならぶった切った方が百倍早い」
「便利って」
そんな理由でゴールドクラスに高位と言わせる魔法を覚えるとは。さすが超一流と言われる冒険者だ。自分じゃそこそこなんて言っているが、きっと神官としても相当な腕なのだろう。
「他にも魔法は?」
「いいや。そっちの才能はなかったみたいだなー。聖魔法の他は火起こし代わりに初歩の
「魔法適正か――どうなんでしょうかね」
正直、この世界の生まれ出ない俺にそんな適正はないと思うが。
「さあな。練習してみなきゃわかんねーよ。適性がありゃあ、練習次第でそのうち身につく」
「ちなみに俺は魔法の類いは使えないぜ」
「俺もだ。マッチは必需品だな」
クリフトンとレイモンドが言う。まあ、いかにもそんな見た目だ。
「おしゃべりはこのくらいにしとこうかー――取りあえず得物とボロはこのままにしとくぞ。帰りに幾つか持ち帰りゃ討伐の証拠としちゃ十分だし、ここに置いとけば万が一の時に目印になる」
「――目印?」
「ああ。今から森に入るからね。クエストの内容的に、万が一アタシたちが街に戻れないなんてことになれば調査が入る可能性が高い。
表情を引き締めて、アシェリーさん。
「森に
「しかし姉さん、
「こんなとこにそんなもんがあるとは思えねえよ」
抗議の声をあげる二人。森は街道沿いに地平まで伸びている。これは街道から見た話で、王都の方から見た感じ、奥行きは――そちらも地平まで伸びていた。すくなくとも五キロ四方の森であることが予想できる。
そして王都から観測できる森の範囲内には山はおろか、丘さえない。そういった横穴が存在する立地ではないと二人は言いたいのだろうが――
「……洞窟が縦穴だったら?」
思い当たったことを口にする。そんな俺にアシェリーさんはにまぁっと笑った。
「いい答えだ。この二人よかよっぽど冒険者してるぜ。今までこの森じゃあ禄にモンスターが見られなかった。だからってわけじゃねえが、きちんとした調査が入ってない」
アシェリーさんの口上に、クリフトンとレイモンドは表情を引き締める。俺もだ。
「そして
「まさか――」
「この森全部調べようって?」
「それがアタシらの受けた仕事さ――まあ今この場で森を全部ってのはどう考えても無理筋だ。ギルドへの報告もある。日の出までには街へ戻った方がいいだろうな」
「うへぇ」
「マジかよ」
いかにも嫌そうにクリフトンとレイモンド。
「そんなに気ぃ落とすこともないぜ。奴らが森の端から端まで徘徊するとは思えねえ――っていうかさっき見たろー? 窮屈そうに木の間から出てくるのをよ。あんなんで森の中を大移動はできないだろ。もしかしたらそう遠くない場所に巣があるのかもしれない」
「んな近場に巣があったら、今までだって出没しただろうさ」
「だよな。今の今まで通りがかる人間を襲うのを我慢してたってこともねえだろうし」
「ぶつくさ言うな。それこそ昨日地崩れがあって、地下の洞窟への縦穴が空いたとかかもしれねーだろ? そういうのひっくるめて探索するのがアタシらの仕事じゃねーか」
三人の会話を聞いていて、思い当たったことを口にする。
「関係あるかどうかわからないんですけど」
「うん? 何だい、言ってみなよ」
アシェリーさんに促される。
「最初に
「うん」
「それでクララが
「うん」
「叫びを聞いて森に入って、クララに会うまでそう時間はかからなかったと思います。緊張してて時間感覚当てにならないかもですけど、それでも視界が効かない森の中を進んで――クララは手傷を負っただけで殺されていなかった」
俺のたどたどしい説明を、アシェリーさんは辛抱強く聞いてくれる。
「……それで?」
「森の深くないところ……というか浅いところにぽっかり広場みたいなところがあって。そこで
「へぇ……そいつは」
匂うね、とアシェリーさんが呟く。
「匂う?」
「ああ。人の手が入っていない森で、その空間だけ木が生えていないのは不自然だぜ。何か理由があるはずだ。ナルミ、あんたそこに何か違和感がなかったか?」
問われ、記憶を探ってみる。が――
「……すみません、必死だったんで、周囲にまで気が回ってなかったです」
「いや、いいさ。どうせ行けばわかる。奴らの巨体じゃ森の中の移動は痕跡残しまくりだろうし、それを追ってクララが
どこか面白がるようにアシェリーさん。
「それが当たりなら、奴らの出所がナルミの言う広場じゃなかったら?」
「そりゃ外れだろ。当たってねえんだから」
とは、クリフトンとレイモンド。それに対しアシェリーさんは――
「いいや? その時は大当たりだ。他にも当たりの可能性があるんだからな――さ、行くぞ。もたもたしてたら夜が明けちまう」
そう言った。それを聞いてクリフトンとレイモンドは肩を竦める。アシェリーさんがいちいち格好よくて二人が引き立て役に見えてしまうのは気のせいだけじゃないはずだ。
――と。
猛獣の雄叫びのような咆哮が辺りに響いた。
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