第1章 異世界転生 ⑥
言いながらイーヴァはゆっくりと俺に対して手をかざす。もう見る前から知ってる。攻撃魔法を使おうとしている。敵意バリバリ感じるしね! かざされた手のひらに今のところ変化はないが、セシリアと最初に会った時以上の圧を感じる。
慌てて逃げ出そうとする前に、セシリアが彼女と俺に割って入った。
「いけません、イーヴァ様! 如何にイーヴァ様とて天罰が下りますよ?」
「退いてください、お姉様……お姉様を拐かす輩はわたくしの魔法で木っ端微塵に」
「駄目です! 使徒様になんてことを!」
「アトラ様の使徒様なら、もっと聖人のようなお顔をしてらっしゃるはずです! こんな目つきの悪い方であるはずがありません! お姉様は欺されているのです! この方からは卑屈なオーラを感じます! 神々しさを感じません!」
ますます酷い言われようだ……悪かったな。目つきは生まれつきだからしょうがないだろ。後あんまりそこらへん弄ったらウチの両親が可哀想だ。やめてくれ。
イーヴァの叫びを聞いたセシリアは俺を肩越しにちらりと見て、
「……それは、そうかも知れませんが」
そうかも知れないのかーい。
「待て待て、嘘は吐いてないぞ、俺」
「ナルミ様は人を欺すようなお人ではありません。それに、ナルミ様にはアトラ様の神託が下るのです」
言いながらセシリアは胸元のロザリオに手を添えた。途端、あの時のようにロザリオが仄かに光を帯びる。アトラのアシストか?
アトラからの交信はない――しかし、イーヴァがその輝くロザリオに目を瞠る。
「! この神々しい輝きは――」
「ナルミ様にアトラ様の神託が下った後、私のロザリオにアトラ様の神聖力が宿ったのです。私の祈りに反応し、こうして神聖力の光を灯すのです」
どうやらアトラのアシストが入ったわけじゃないらしい。セシリアがロザリオを慈しむように撫でると、例の声が脳内に響いた。
(それだけではありませんよ。魔法を使う際にロザリオに祈りながら発動させることで効果を上昇させます。私の神聖力が宿ってますからね、この世界に二つとありませんよ)
え、何それ凄い。っていうかアトラ、魔王倒せって言うならまず俺にそういうチートアイテムくれるのが筋ってもんじゃないか?
(そんなことよりナルミ、私はお蕎麦よりおうどんの方が好きです)
「誰も聞いてねえんだよ、そんなことは!」
思わず怒鳴り返すと、セシリアとイーヴァの二人がびくりとする。
「ああ、ごめん……君たちに言ったわけじゃないんだ」
「とすると、またアトラ様の神託が?」
眼をキラキラさせて、セシリア。イーヴァの眼はまだ疑惑の色が濃いが、とりあえずセシリアにアトラの言葉を伝える。
「うん――そのロザリオ、祈りながら魔法を使うと魔法の効果が上昇するんだってさ」
「――確かに魔石を施した触媒を使うことで魔法の効果は上がりますが――そんなもの、神器そのものでは……」
「ああ、主よ――どうして私ごときのロザリオにその御力の宿されたのですか――」
イーヴァは畏怖し、セシリアはお祈りポーズで感動に打ち震える。アトラってそんなか? 俺に聞いてもいない麺の好みを一方的に告げてくる変な奴だぞ?
(私ゴイスー)
お前しばらく黙っとけ!
((´・ω・`))
どうやって脳内にAA送りつけてきてんだ、こいつ……
「さっき、アトラはセシリアのことを敬虔な信者だって言ってたって言っただろ? 頼れってさ。そのお礼の先払いってとこじゃないかな」
「困っている人に手を差し伸べるのは当然のこと――その行いの対価にこのようなものを授けてくださるとは……ああ、主よ。このセシリア、命を賭してナルミ様に尽くします」
「お姉様、それは悪魔の囁きでは? 確かにそのロザリオの輝き、疑うことのできぬ神々しさを感じますが……それでもこの方の言葉が全て真実だとは限りません!」
はらはらと感激の涙をこぼすセシリアに、セシリアを庇うように俺の前に立つイーヴァ。
「イーヴァ様、そんなことを言ってはなりません。これこそ主のお導き――私がこの世に生を受けたのは、ナルミ様に仕えるためだったのです」
「いや、そんな大袈裟なものじゃないから」
本当に命ごと差し出しそうなセシリアをなだめる。この子真面目で優しい美少女だと思ってたけど、これはこれでぶっ飛んでるな……
「さあ、なんなりとお申し付けください、ナルミ様」
「お姉様! せめて神父様にこの方を見定めてもらってからでも!」
事態が混迷を極めてきた。これは神父様とやらに出てきてもらって場を納めてもらいたいものだが、お茶を淹れているという神父が戻ってくる気配はない。何をしてるんだ?
(イーヴァの魔法の気配に気づき、怖くて扉の外でブルッてますよ)
アトラの声。黙っとけって言ってごめんね! 教えてくれてありがとうね!
「じゃあ扉の外にいる神父様に入ってきてもらおうか」
そう口にすると、扉の外でごとっと物音が聞こえた。それを聞き逃さなかったイーヴァがつかつかと扉に向かい、がばっと勢いよく開ける。
「神父様!」
そこには五十代くらいだろうか、禿頭の男性がティーセットの乗ったトレイを持って立っていた。勢いよく開けられた扉にびくっとして、そして。
「イ、イーヴァ様、ありがとうございます。手が塞がっていて扉が開けられず困っていたところです……セシリア、戻ったのですね。お帰りなさい」
少し震え気味な声でそんなことを言った。
……この人に任せて大丈夫かなぁ……
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