あの子の夢
土蛇 尚
とある朝
「ロケット出てるよ」
朝、忙しく家事をこなす母さんに言われテレビに目を向けた。テレビにはH-3ロケット。
「うん出てるね」
今日は英語のスピーキング試験なんだ。もう電車の時間。学校行かないと。
「じゃあもう出るよ。お弁当ありがとう。行ってきます」
「うん…いってらっしゃい。気をつけて」
朝、あの子が降りてくる前には朝ごはんを作りながらお弁当を作って後の家事の準備をしながらテレビに耳を傾けるのが私の習慣。あの子のお弁当からおかずを詰めていき良い感じになったら旦那の方に残りをどかっと突っ込む。
その最中だった。テレビから
『…–3ロケットは国際競争力と低コスト化を念頭に開発された新型ロケットであり現在種子島で明日の打ち上げを控えて…』
と聴こえてきた。旦那の弁当に箸を入れるのも忘れ、これはあの子に伝えないといけない!そう思った。あの子は小さな頃からロケットが大好きだった。
戸棚から弁当袋を取り出していると奥から小さな袋が出てきた。あの子が小学生の頃に使っていた弁当袋だった。せがまれて『イプシロンロケット』と刺繍したのがそのまま残っていた。今のお弁当箱は絶対入らない小さな袋を見て色々思い出してくる。
保育園の手提げカバンには何のマークか知らないけど三菱を刺繍し、見たい映画があると連れて行けば2分だけロケットが出るものだった事もあった。
それで「ロケット!!」って喜ぶのだ。
あの子はロケットが大好きなのだ。あの子が喜ぶなら何だって良いと思える。
あの子が降りてきた。数学ブルー海図Ⅱを開きながら片耳だけbluetoothをつけて英単語を聞きながら朝ごはんを食べるあの子。マルチタスクが得意な親子なのだ。旦那は出来ない。
「ロケット出てるよ」
「うん出てるね」
「じゃあもう出るよ。お弁当ありがとう。行ってきます」
「うん…いってらっしゃい。気をつけて」
「ああ、帰ってきたら聞いて欲しい話があるんだ」
そう言ってあの子は高校に行った。
あっという間に一日は終わる。あの子が帰ってきた。旦那は飲み会らしい。
「これ見てほしい」
あの子が机に置いたものは英語で書かれたパンフレットだった。学生の頃の名残りでだいたい読める。
アメリカのロケット開発をしている大学のものだった。
「本気?」
「アメリカに行く。父さんはどうにかすると言ってくれている。母さんは応援してくれる?」
「もちろん!」
それから国内に同等類似の大学はないか、向こうでの具体的な費用の計算、これからの学習計画について、あの子とたくさん話した。まだ高1、時間だけはある。
「わかった。頑張りなさい。あとスカートがシワになるから早く着替えてきなさい」
あの娘はロケットが大好きなのだ。
あの子の夢 土蛇 尚 @tutihebi_nao
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