24 魔銃解放

 ぶんぶん、とルガーが剣を振る。

 アルヴィは斬撃を回避しながら、小さな声で呟いた。


「馬鹿に刃物を持たせるべきではない。他人はもちろん、自分自身も傷つけてしまう」


 ルガーの剣には明確な殺意が込められていた。アルヴィが回避しなければ確実に深い傷を負っているだろう。


「ほらどうした。逃げてばかりじゃ魔法対決にならないぞ!」


 ルガーは以前の対決の時に比べ、体の動きも滑らかだ。

 どうやら相当な訓練を積んでいたのだろう。アルヴィが憎いというだけでそこまでできるのも、才能かもしれない。


「これは栄えある魔法対決だ! 魔法貴族がやられっぱなしでいいのか? それとも怖くて何もできないのか? 情けないやつめ!」


 アルヴィは珍しく悲しい気分になっていた。

 ルガーはつまるところ「辺境領主の息子」という立場では絶対に超えられない「魔法貴族」を打ちのめすことで、劣等感を解消しようとしているのだ。

 実に寂しい男だ。


「俺はもう魔法貴族ではないのだがな……。ところでルガー。魔法とは何だ」


 アルヴィはルガーの攻撃を躱しながら、問い掛ける。


「魔法は魔法だ! 神々から与えられる、強い力のことだ」


「オド、魔詞、マナの三要素を用いて、任意の現象を発動させることだろう」


「んなこた知ってるよ。いちいち魔法も使えないのに偉そうなやつだな!!」


 ルガーが渾身の一撃を繰り出す。

 ――――ギィィン!!

 その一撃をアルヴィが受け止めた。

 両手に握られているのは、二丁の魔銃だ。


「な、何だ……それは」


「魔法を発動させるための杖といったところか」


 アルヴィが二丁の魔銃で剣を挟み込み、ルガーを押し返す。


「ぐはぁ! そ、それが魔法の杖だと? また訳の分からん機械を!」


「魔法の三条件をクリアした、魔法の杖だ。だから俺が今から行なう攻撃は、紛れもなく魔法になるだろう」


「そんな杖があるか――――!!」


 ルガーが銃口に向かって斬りつけてくる。

 が、その動きもタイミングも、何もかもが遅かった。

 アルヴィが〝発火〟の言葉とともに魔銃の引き金を引く。

 薬莢に込められた魔石が爆ぜ、銃弾が射出された。

 弾は、ルガーの鼻っ柱に直撃した。


「痛てええええええええ!!! ああああ!! 何だこれええええ!!!!」


 もちろん威力は押えている。薬莢の魔石を量を少なめにしていたのだ。殺したら殺したで、余計な面倒が発生するだけだ。


「お前、卑怯だぞ!」


「どこが卑怯なんだ。これは魔法対決だろう」


 さらにアルヴィは引き金を引く。

 パン、パン、と乾いた音がするたびにルガーは飛び跳ねる。


「い、いてええ! おま……いてっ! やめろ!」


「どうしたルガー。魔法対決は終わりか」


「こ、これが魔法なものか!」


「魔法だ。俺は魔銃に意識を集中させ〝発火〟と唱えて〝オド〟を発動した。そして薬莢に詰められた魔石は、マナの結晶体だ。魔石が爆発し、銃弾が撃ちだされた。魔法の三要素はクリアしている」


「そ、そんなの聞いたことがない! そんなものが魔法でたまるか! ……まさか、あの畑を耕す機械も、魔石を……?」


「今頃気付いたのか。そのとおりだ。あれは魔石で駆動する機械だ」


 ルガーの怒り顔が次第に恐怖の色に染まる。

 ルガーは領主の息子だけあって領民よりは「神話」を信じている。


「神々は魔石をみだりに使うことを禁じている。お、お前はその神々の教えを……な、な……」


「使えるから使ったにすぎない。何の問題がある。探せば地中に埋まっている石に、何の価値を求めているのだ」


「お、恐ろしい……お前は異端者だ! 狂ってる!!」


 ルガー立ち上がり、再びアルヴィに剣を構えた。

 その手はカタカタと震えている。恐怖による震えだ。


「駄目だ、お前はここで殺すしかない。そんな異端者が存在すること自体が、間違っているんだ……!!」


 もはや魔法対決と言える状況ではなくなっていた。

 が、それでもアルヴィは冷静だった。

 ――やはり権力に近い者ほど信仰が篤いという訳か。

 ――実験室には酸があった。死体の処分には問題ないだろう。

 ――もっとも魔石のメリットを説いて利益を与えるのも手ではあるが。


「んああああああ!! 死ねッ! 死ねえええ!!」


 ルガーはやけくそになって剣を振り回す。やはり馬鹿に刃物を与えるべきではないな、と思う。

 すると――突然人影が現われた。

 黒いローブで姿を隠した人影は、二人の間に割って入る。


「何だ……?」


 ルガーが呆気にとられていると、影はルガーの額に指を突き刺すようにあてた。


「〝記憶は夜霧のように消え、やがて朝焼けに溶けるだろう〟」


 影が魔詞を詠唱すると、ルガーはその場で意識を失って倒れた。

 影がアルヴィを振り返った。

 そこにいたのは、クロエ・スカーレットだった。

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