17 禁域の深き森、歪曲魔法
アルヴィの新しい生活がはじまった。
圧倒的な速度で畑を耕し、金を稼ぐ。
残った時間の全てを研究に費やす。
それだけが、ここしばらくのアルヴィの全てだった。そして今日もまた、アルヴィは実験の続きをしようとしていたが――。
「――おっと、魔石が減ってきているな。少し採ってくるか」
と、アルヴィは「魔石コンパス」を革の鞄に入れた。
これまで魔石を探す時は、周囲の自然を観察しながら手当たり次第に地面を掘っていた。が、やはりそれは効率が悪い。
そこでアルヴィは魔石が埋もれている位置を示すコンパスを発明したのだった。
「これも念のために持って行くとしよう」
さらにアルヴィは「魔銃」も装備した。
基本的な形状はセミオートの銃と同じだが、薬莢には粉末状にした魔石が詰められている。引き金引くことで、オドと炎の魔石が反応して爆発する。その勢いで銃弾が射出される、という訳だ。
原理的には火薬を用いた銃弾と同じだが、魔石の方がお手軽に作れる。
「よし、銃弾も十分にある。出かけるとするか」
準備を終えたアルヴィはいつものように森へと向かった。
*
出発してから数時間後、アルヴィは山のふもとで立ち止まった。
もちろん道に迷った訳ではない。
「コンパスの反応が妙だな……。魔石のある方を示すように作ったはずだが?」
魔石とはマナの結晶だ。それゆえ、魔石の周囲は魔力の揺らぎがある。
アルヴィはその特性に目をつけ、コンパスの針が魔石のある方を示すようにしているのだ。
が、コンパスはぐるぐると回ったり止まったりをくり返している。
「これは探究の余地があるかもしれん」
これまでにない反応に、マッドサイエンティストの血が疼いた。魔石採掘以上に面白いことがあるかもしれない。
アルヴィは魔石の針の動きを慎重に観察しながら、森の奥へと進んで行った。
「やはりここは……禁域か。魔力の乱れといい、やはり何かがあるようだな」
アルヴィはディオレスの書庫で書き写した地図を見ながら呟いた。地図には空白地帯があり、そこにはただ「禁域」とだけ書かれているのだ。
アルヴィはさらに周囲を調査した。
しかし何度歩いても、アルヴィは同じ場所に戻ってくるばかりだった。
「ほう……〝質量のある虚無〟を展開させ、空間を歪曲し、封じているのか。これは先端魔導に類する術じゃないか。一体誰が、何のために?」
アルヴィは封印され、ねじ曲げられた空間の大きさを把握した。
縦二百メートル、横に二百メートル程度のサイズだ。
その正方形の空間が、まるまると外界から隔てられているのだ。
アルヴィは自作した双眼鏡で上空を眺めた。
「さて、この手の空間魔法は地中か上空に虚無の集束点があるはずだが――」
すると、青い空の中に黒く濁った点が見えた。
周囲の光を全て吸収するブラックホールのように、その空間はただひたすらに黒く歪んでいた。それがアルヴィの言う「集束点」だ
空間を制御する魔法を発動させた場合、この集束点は必ず発生するのだ。
アルヴィは歪曲された空間に向かって、魔銃を構えた。
「集束点に質量を加え、空間魔法の均衡を破る……か。かつての人生を思いだすな。そういう実験もやっていた……。はてさて、実験がうまく行くと良いのだが」
アルヴィは前世――ガルツ・ジョーウィンであった頃を懐かしみながら、トリガーを引いた。
パン! と乾いた音。
アルヴィの目の前の景色が瞬く間に変化した。
魔法の壁が崩壊したのだ。
そして壁の向こうから出現したのは、荒れ果てた城だった。
「こんなところに城だと? どの歴史書にも地図にも書いていなかったが……」
アルヴィは朽ち果てた城を調査することにした。
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