第10話 邪悪の創世神3.3バカの勇戦
「……終わったか。しず姉が勝ったな」
「おぉ、やった」
「俺らも負けてらんねぇーっスね!」
「あぁ、ちょうど次の邪魔者がお出ましらしーし。お前らに頑張ってもらうか」
「へ? うぎゃーっ、ゾンビ!?」
シンタが叫んで飛び上がったとおりに、そこに佇立する4つの人影はゾンビ・・屍鬼というしか他にない存在だった。
「我は
「
「
「
「「「貴公らに怨みはない。が、我が主サティアさまのため、死んでもらう」」」」
「直江、宇佐見に甘粕、柿崎・・サティアに挑んで殺された4人か。自分が殺した相手をリサイクルして使うとか、精神おかしーな、女神さまは・・。よし、ここはお前らに任せた」
「え゛ぇ?」
「まあ、ただで放っていくわけにもいかんからな。これ使え」
辰馬は髪を束ねる五色の
「おれの力の結晶。割ればお前らの力をだいたい、10倍くらいに高める。まあ時間限定だし、一回限りのドーピングだから使いどころ気をつけろ……信頼してっから、絶対勝てよ。つーか一部とはいえおれの力を使うんだ、負けるとか許さん」
「あー、新羅さんにそー言われたらなぁ……」
「ま、やってやるっスよ! ゾンビがなんだっつーの!」
「拙者の力を見せてやるでゴザル!」
「んじゃ、そーいうことで」
辰馬はゾンビたちの脇をすり抜け・・ようとして名クォーターバックばりのタックルをかましてくるゾンビ柿崎。それを思い切り蹴り飛ばす。ゾンビとは思えない勢いで立ち上がり追いすがろうとする柿崎だが、その後頭部にスコーンと短刀が突き立つ。シンタの短刀投げ《スローイング・ダガー》だった。
「さーて、そんじゃ次は俺の出番か」
「なに言ってんだか。オレが主役に決まってんだろ」
「拙者に決まっているでござろうが!」
大輔が
シンタは短刀を抜く。
出水は妖精、シエルを浮かせて魔道書を開いた。
「「「来いや、ゾンビどもアァ!!」」」
・・・
「土遁、蔦絡み!」
早九時を切って、出水が叫ぶ。床を引き裂き現れた泥濘の蔦が、屍鬼たちの脚にまとわりつき動きを封じる。
そこに疾走する大輔とシンタ。シンタが六本の短刀を立て続けに投擲、敵の前衛、柿崎を名乗る巨漢ゾンビの胸板に容赦なく円状に突き立った六本の刃は、妖しく禍々しく輝く。「これで、終わりだっ!」七本目を円の中心、胸のど真ん中に突き刺すと、どうっッ! と爆音を立てて七本の短刀が連鎖爆発。柿崎をよろめかす。
そこに。
「獲ったあァ!!」
大輔は巨大なナックル……殴り籠手をまとった拳を思い切り振りかぶる。わざわざ大ぶりに挙動を悟らせる時点で、無構えからの必殺を狙う辰馬や雫に言わせれば全然ではあるのだが、大輔にそんな高等技は使えないし今更辰馬たちの身体運用を真似することも出来ない。我が身にある空手の技でどうにかするしかなかった。
「おおぉぉぉぉぉぉーるアァァッ!!」
ごぎゅうっ、と拳が肉をえぐり、骨に達する感触。人間相手なら確実にやりすぎの一撃。実際大輔はストリートファイトで人を半殺しにしたことが何度もある。あちこちの道場を渡り歩き、「お前らのやってんの、もしかしてそれ、空手?」とかいって挑発して相手をボコボコにした経験は一度二度ではない。蒼月館で辰馬に会って荒んだ過去とは決別したが、身に染みついた【人体破壊の技術】は抜けるものではない。一撃必殺を追求して毎日毎日、一指禅(一本指での逆立ち指立て伏せ)10万回、腹筋10万回、片足スクワット10万回、追い突きと前蹴り30万本をこなすという泥臭いほどの努力も、日々欠かしていない。泥臭いほどの努力の結実、それが裏切ることはない!
柿崎は声もなく吹っ飛び、壁……本来玄道建築(和装)のはずの邸内は隔離世として女神好みに弄られたためか洋風のレンガ造りになっており、柿崎はその石レンガに思い切り激突した……、動かなくなる。
「どーだオラァ! ……って、あれ?」
フォロースルーから構え直して、一番不審な顔をしたのは大輔自身。確かに必殺の念を込めはしたものの、まさか本当に一撃で倒せるとは思っていなかった。
いや……油断すんな、朝比奈大輔。こいつらは外道女神の手下……なにかあるはず……って、ぐあぁぁっ!?
「げうっ!? がははあぁっ!?」
突然、身体に走った凄まじい衝撃に、大輔はたまらす膝を突いた。むせかえり、咳をすると臓器を痛めたらしい血反吐が、ゴブッと吐き出される。
「大輔! どーしたよ突然!?」
直江、甘粕と斬り結んでいたシンタが、怪訝そうに聞く。さすがに戦士である。この状況で敵を放って大輔に駆け寄るなどという愚策は犯さないが、心配は確実にシンタの動きを阻害していた。この状況で出水の蔦絡みによる敵の行動阻害が切れたなら……「くあぁ……っ、こいつら、突然速く……ッ!? 出水、なんとかしろって!」
と、出水に声をかけるも、出水は宇佐見との術比べに突入して仲間をフォローする余裕がない。というより、出水が宇佐見を引き受けているから戦線はなんとかなっている。
「バカ杉、攻撃は駄目でゴザル、そのまま返ってくるでゴザルぞ!」
「はアァ!? そんなのどーすんだよ、絶対勝てねーじゃん!」
「拙者が、主人公の拙者が! なんとかこの連中を操っている繰り糸を切るでござる。それまで時間稼ぎ任せるでゴザルよ!」
「誰が主人公だボケ! って、んな、こと言ってもなぁ! 一対一ならともかく、二対一となると厳しいんだけど!」
「あとで主さまの尻を触り放題!」
「よし頑張る!」
……ひとまずあのバカに任せるとして、主砲の大輔があの状況、ここで拙者の霊力が尽きたら終わりでゴザルな……。
出水はぶよっとした丸顔に焦慮の表情を浮かべる。息が荒くなり、メガネが曇った。
「シエルたん、力を借りるでゴザルよ」
「うん、いーよ……優しくしてね♡」
「わかっているでゴザルよ」
小妖精、シエルの身体を右手に握りしめ、意を集中する。
「
出水秀規という男はただのデブではない。もともと太宰の神職の血筋であり、将来を嘱望される天才児であった。あまりに強すぎる性欲の処理にエロ小説を書き散らかした結果家を追われたどうしようもない荒淫癖のバカではあるが、聖女と言われる神に近しい存在を除いては、その霊力はかなり高いのだ。八掛法術は桃華帝国から流れてきた鬼道の流れをくむ、出水家家伝の術。出水の卦は坤卦、すなわち大地の
「……っ!?」
宇佐見の眉根がつりあがる。拮抗していた霊力の綱引き、その主導権が、出水に握られていた。強烈な霊力の波動に、女神から力を授かった宇佐美であってもその屍体を焼け崩されそうになる。
その宇佐見の痛みを、出水はまともに反射されて受ける。直接的なダメージではない、いってみれば幻肢痛に近いものだが、感覚としての認識に変わりはない。常人なら大声を上げてのたうち回るであろうその痛みに、出水はかろうじて耐える。やるべきことはようやく半分。仕上げをやらずに倒れてしまうわけにはいかない。
地澤臨にシエルたんの力も借りて、今の拙者ならなら繰り糸が見えるはず! それさえ絶てば!
出水は焼け付く痛みに耐えながら、霊視の瞳に全神経を傾注する。眼球がつぶれそうなほどの痛み。脳髄がひりつき、意識が遠のく。耐えがたきを耐え、どうにか意識を引き戻すして敵手らのさらに後ろにあるであろう繰り糸を探す。それだけ絶てばあとは二人に托せるが、それが出来ないようではここにいる資格がない。
集中しすぎ、充血で赤く染まる視界。そのなかにほのかに煌めいた異物感。それこそが紛れもなく。
「絶!」
次の瞬間、場のプレッシャーがガラリと崩れ霧散する。女神の支配力の消失。
「バカ杉、全力! 大輔も、いつまでも倒れてんじゃねーでゴザルよ!」
「おお!」
「言われなくてもだ、クソが! ここでアレ使うぞ!」
シンタと大輔が息を吹き返す。大輔が言って、なにかを床に叩きつけた。シンタと出水もそれに倣う。
それは新羅辰馬に托された封石。割れたそばから盈力が三人にまとわりつき、一躍それまでに数倍する力を実現する。
「くあぁ、効くぅ~! ダメージもすっかり消えた、さすが新羅さんの力!」
「うっし、やるぞぁおめーら! 辰馬サンのケツのために一踏ん張りだ!」
大輔とシンタは雀躍、敵中に躍り込む。冒険者育成校で1級冒険者の辰馬の足手まといにならない程度には高いレベルにある三人と、義憤に駆られて起ったとはいえもともと寒村の農民に過ぎない4人とではもとの戦闘力に天地の開きがある。今までは女神の加護……という名の呪いが力を底上げしていたが、もはやそれもない。あとの戦局が一方的なものになるのは、当然なことだった。
「終わりだ! らぁ!」
大輔の前蹴りが直江の鳩尾に吸い込まれ、前屈みに崩れた側頭部に打ち下ろしのフック、そしてとどめ、逆脚を跳ね上げての上段回し蹴りで、直江は崩れ落ちる。
「こっちもな!」
物陰に隠れ潜み、背後からの
出水の戦いは非常に地味なものだった。宇佐見とにらみ合い、ひたすら霊力を相手の頭の中に送り込む。互いの精神への干渉戦を出水は制し、宇佐見は鼻血を噴いて倒れた。
「ふっ……ま、ざっとこんなモンだな」
「まあなんつーか? 物足りねぇぐらいだよなー!」
「拙者たちをこの程度で止めようとは、片腹痛いんじゃあでゴザルよ!」
「あのさ……、この連中、やっぱ死んだままなんかな?」
「まあ、そーだなぁ」
「一度しっかり死んでわけでゴザルからなぁ……。まあ、ダメ元でやってみるでゴザルか。大輔、バカ杉、盈力こっちに」
出水が差し出した手を握って、大輔とシンタは辰馬からの一時預かりの力を出水へと譲渡する。三人ぶんの盈力を身に宿すと、完全に出水の潜能を超えている。およそ常人人理術士の限界を超えた力を身に宿し、出水は力を解き放っていく。
「魂が完全に剥がされてるなら主さまにだって無理でゴザろうが、この身体に残ってるなら拙者にもできるはず……女神の干渉力を剥がして、肉体を
手順を一つ一つ口述しながら、出水は術を施していく。次第次第に、四人の被害者たちの身体が完全にゾンビだったそれから人間の血色を取り戻していく。
「ふう、はあ・・あとは衝撃を与えてやれば・・大輔、ちょっとぶっ叩いてやるでゴザル」
「おう。そんじゃ・・ヌン!」
大輔がまず、宇佐見を座らせると背中から活を入れる。
・・・
「……ぅ……君、らは……?」
「うしゃ! 生き返った!」
「ぃやはー! やった、どんなもんでぇクソ女神!」
「ふぅ……あれだけ気力精神力使って徒労だったらどうしようかと思ったでゴザルよ」
「……君らはなんなのだね? ここは? 私は、あの暴虐の女神を倒そうと、直江たちと一緒に・・」
「覚えてねーならそのほうがいいでしょーよ。後のことは俺らと、新羅さんに任せて」
「? よく、わからんが……村長殿と早雪さまは、無事なのかね?」
「あー、たぶん? ……早雪、ってさっきの女だよな。まああっちはたぶん無事だとして。村長は……どーかな?」
「ま、辰馬サンに任せよーや」
「そーでゴザルなぁ。とりあえず、拙者は休憩させてもらうでゴザル」
「俺もちっと休むか。今新羅さんのトコに駆けつけても、役にたてん」
「オレもー。もう盈力も残ってないしな」
「「「ま、あの新羅さん(辰馬サン、主さま)がクソ女神に負けるわけないし」」」
それは信仰にも近い信頼の言葉であり。
神魔というものが信仰と畏怖を糧として力を増すというのであれば、確実に辰馬に届いた。
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