掌編小説・『スライム大賢者』
夢美瑠瑠
第1話 末期の大賢者
1 末期の大賢者
魔界一のエリート大学、「コギリーザ魔導秘術研究学廠」(KIM)の、終身学長にして、恐らくは史上最高峰で、不世出の大魔導士と言われている老DR・ツルスエヴァーも、寄る年波には勝てなかった。
最近はめっきり腰が曲がり、足腰も弱り、セレモニーで着るきらびやかな「王者のローブ」が、ずっしりと肩に重い感じになった。
これは豪奢に金銀宝石をちりばめているベルベットの礼服で、重量が3キロはあって、老体には負担が大きいのだ…
さわやかな、晴れた五月の朝、鶴のような痩身で蓬髪、渋皮色の顔面には深く刻まれた皺があり、両の神秘的な瑠璃色の瞳に深い叡智を湛えている老境の魔導博士は、大宮殿の奥まった一室、魔法陣で結界を張っているので何物も侵入すること能わぬ秘密の八角形の寝室で、深い眠りから目覚めた。「何か気がかりな夢」を見ていたみたいだが、別段虫に変身しているというような奇態なことは起こっていなかった。
博士は毎朝、易経とタロットとホロスコープを独自にミックスアレンジした占いで卦を立てるのを習慣にしていたが、占いだして小半時もしないうちに「パタッ」と「吊るされ男」のタロットを指からすべり落とし、顔を覆って「ううう…」と呻いた。
大きく瑠璃色の両眼を見開いていた。
「なんということじゃ!私の寿命はもうあと三日しかない。何度占いなおしても同じ結果が出る。もう何百年生きてきたかわからない私だが、こういう不吉な卦が出たのははじめてじゃ。ううむ…どうすればよいのか…」
壁のスイッチを操作して、秘密の本棚をせり出させた。ぎっしりと詰め込まれた秘蔵の魔導書のなかから血塗られたように赤い羊皮紙の装幀の書物を取り出した。複雑な楔形の文字で書かれているので、これはフェニキア文明伝来の魔導書らしい。
しおりを挟んでおいたページをめくる。
博士はこういう時のために備えておいたとっておきの魔法を試すというつもりだったのだ。
「≪転生の魔法術≫死の淵に直面したるものよ、汝に転生の秘術を授けよう。転生するには…」
老魔導士はその先を読み耽り始めた…
<続>
掌編小説・『スライム大賢者』 夢美瑠瑠 @joeyasushi
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