そして僕は

 「3秒前!」

 「2!」

 「1!」


 「ゼロぉ!」


 最後は魔呼の楽しそうな声…何が楽しいんだろう。

 小山田に掛けてある白いシーツがふるふると震え出した。


 「え?何これ?」


 何が起こっているのか分からない僕は、ベッドから半歩後ずさった。

 と同時に勢いよくシーツが跳ねのけられた。




 「ぶべぁぁぁ!!!」




 小山田がびしょ濡れの状態で起き上がって肩で大きく呼吸をしている。


 「し、死ぬかと思った…」


 唖然とする僕の隣で魔呼が嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねている。


 「やったぁ!おばあちゃんやっぱすごぉい!」

 「手を施すのが早かったからねぇ。」


 老婆もニコニコとしていた。




 小山田が…生き返った…。


 「小山田!」

 「うわっ?何?誰?」

 「良かったぁ!ホント良かった…えぐえぐ…僕どうしようかと…」

 「ま、待て待て!何がどうなってる!?」

 「え?」

 「え…って鳥居…か?」

 「あれ?」


 満面の笑顔の魔呼が僕の隣に来て小山田の顔を覗き込んだ。


 「あら…聖人化が解けちゃってるわね。」

 「げ!お前…じゃなくて貴女は!」


 小山田がベッドから転がり落ち、魔呼から遠く離れて土下座した。


 「先日は大変お騒がせし申し訳ございませんでしたっ!」


 どうなってんだ?

 『あははは』と大きな声で笑う魔呼が小山田に近付くと、地面についた小山田の手を取って立ち上がらせた。


 「覚えてないかもしれないけどあんた、翔馬と一緒に私を救い出してくれたんだ。だから前の事はもうチャラにするわ。」

 「え?マジすか?」

 「但し、私と翔馬の邪魔をしたらそのチャラもチャラにするからね。」

 「そ、それは天地神明に掛けて!」


 僕と魔呼の邪魔って何だよ。

 それに聖人化って解けるものなのか。

 僕としては聖人化しておいてくれた方が安心なんだけど。


 小山田にはここに居る経緯を話した。

 話を聞いた小山田は老婆の前でまた土下座をして床に額をこすり付けながらお礼を言い、老婆は優しそうな笑顔でその頭を撫でていた。


 「でも、またこれで振出しに戻っちゃったかぁ。」

 「何が?」

 「僕が飛ばされた理由ですよ。分からないままですから。」


 『ふふっ』と魔呼が笑う。


 「どうかしましたか?」

 「ううん。私も一緒に探してあげるよ。」

 「え?ホントですか?」


 魔呼が腕を僕の腕に絡ませ抱き付いて来た。


 「だって、プロポーズされちゃったし…」

 「だからそれは…」

 「それは本当かぁ鳥居ぃ!?」


 小山田が噛み付いてくる。

 僕たちは老婆に礼を言い、じゃれ合いながら現世へと戻る。


 僕の旅が始まった。

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魂よ!守護神になれ! 月之影心 @tsuki_kage_32

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