復帰

 僕は小山田の亡骸の傍に立ち尽くしていた。


 「ごめんよ…」


 止めどなく流れ落ちる涙に反し、言葉が出て来ない。

 折角闇から抜け出して生まれ変われる筈だったのに…。


 「何とかなるかもしれないよ。」


 魔呼がぽつりと呟いた。


 「ほ、本当ですか?どうすればいいの?」

 「私のおばあちゃん、蘇生術使えるから。でも…」

 「でも?」

 「いいの?いくら聖人化してると言っても…」

 「いいんだ。こいつは魔呼さんを救い出してくれた。過去はどうであれ今は大切な友達なんだ。」

 「翔馬…そう…か…私…こいつに助けられたのか…」

 「うん。だから何とか助けてやりたいんです。」

 「何か…屈辱だわ…ふふっ…」


 魔呼には何とか自分で歩いてもらい、おばあちゃんの所へ案内して貰う。

 僕は二つに分かれた小山田の亡骸を抱えて魔呼に着いて行った。


 魔呼のおばあちゃんの家は魔武の館からそれ程離れていない通り沿いにあった。

 魔呼に促されて中に入っていく。


 「おや魔呼じゃないの…ってどうしたんだいその恰好は?」


 奥から優しそうな顔付をした小さな老婆が出て来たが、傷だらけの魔呼の姿に驚いた声を上げた。


 「私は大丈夫よ。それより…」


 老婆が魔呼の指す僕の方を向いた。

 目を細めながら僕を見ると、やがて胸の前で手を組み祈るような仕草を見せた。


 「え…あの…」


 どう反応して良いのか分からない僕に老婆が語り掛けてきた。


 「随分酷い目に遭ったんだねぇ。あのボクちゃん、小さい頃から全然成長してなくてお笑いだよ。さて、魔呼を守ってくれたお礼をしないとだね。お友達をこっちに運んでおくれ。」


 言われるままに僕は小山田の亡骸を奥の部屋へと運んだ。


 「おばあちゃん、人の過去が見えるのよ。」

 「へぇ…だから何があったか分かるんですね。」


 奥の部屋には診察台のようなベッドが置いてある。

 老婆の指示通りにそのベッドの上に小山田を乗せる。

 老婆が小山田に白いシーツを掛けて手を翳し、何やらぶつぶつと口の中で呟いているようだ。


 3分後。


 「さぁて魔呼。そこの短い杖を取っておくれ。それから魔呼も坊やもそれを持って、ばぁやと同じようにするんだよ。」


 何が始まるんだ…って小山田の蘇生なんだろうけど…魔呼はともかく僕も?

 てか手前の3分って何かやったの?

 何故か魔呼は傷だらけなのにも関わらず楽し気な顔になって杖をくるくるやっている。


 「じゃあ始めるよ。」


 老婆の顔が真剣になる。


 「うんっ!」


 魔呼の目がキラキラする。


 「は、はい…」


 ただ戸惑う僕。

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