哀しみの守護神

 「翔…馬…」


 僕の腕に抱かれたままの魔呼が驚きの声を上げる。


 「な、何者なんだ…?」


 魔武の震える声が聞こえる。




 「守護神ガーディアン…」




 腕の中の魔呼が小さく呟いた。

 魔武の顔が引き攣る。


 「そんな…貴様如きの力で…有り得ない…」


 僕は魔武を一瞥すると、そのまま魔武に背中を向けて敷地の外へと向かった。


 「ど、何処へ行こうと言うんだっ!」


 僕は右腕を二つに分かれてしまった小山田の方へ向ける。

 小山田の体が白い光に包まれて浮き上がる。

 それを引き寄せて小脇に抱えた。


 「ぼっ…ボクを無視するなぁっ!」


 その僕の背中に向けて、魔武が光の矢を放つ。


 「翔馬っ!」


 魔呼が叫ぶ。


 が、魔武の矢は僕の背中まで数cmの所で止まり霧散した。


 「なっ!?」


 驚愕の表情を浮かべる魔武。

 魔武の館の敷地から外に出て、小脇に抱えた小山田と抱き抱えていた魔呼をそっと下ろし、魔武の方へ振り返った。


 「魔武…お前が何かを知っていようがいまいがもうどうでもいい…僕がこのまま世界の狭間を漂う事になっても構わない…でも…僕の大切な人たちを傷付けた事は許さない…」


 魔武は驚愕の表情を浮かべてガタガタと震えながら僕を見ていた。


 「僕は…僕の大切な人を…守るだけだっ!」


 僕の手の中に金色の槍が出現する。


 「あ、あれは…!?」


 魔呼が驚きの声を上げる。

 それもそうだ…槍は自分が使ったのと同じ形なのだから。

 いや、自分の槍より遥かに大きく強い輝きだ。


 僕が槍を持った腕を上に掲げると、更に眩く輝きを増していった。


 「ひっ!?」


 魔武が全身を震わせながら体の正面で必死に印を結んでいる。

 うっすらと壁のような影が見える。


 「無駄だ…」


 上に掲げた槍がすっと前に出た次の瞬間…








 槍は魔武の背後に建つ館の扉に大穴を開け、奥の壁をも貫通させていた。


 「え?」


 魔武の前に現れた壁はそのまま…




 だが、魔武の胸には大きな穴が開いて向こう側が見える。


 「あ…ぐぅ…っ!」


 苦しそうに声を絞り出す魔武。

 続けて槍が引っ張った空気の奔流が館に開いた穴に向かって物凄い勢いで流れ込む。


 「ぐっがっっ!!!」


 魔武の声にならない叫び。

 口をぱくぱくさせているが声が出ないようだ。


 やがて館の中へ流れ込む暴風が魔武の体を持ち上げ、そのまま連れ去って行った。




 僕は振り返って魔呼の元へと歩み寄り、魔呼の傍に屈んだ。


 「魔呼さん…大丈夫?」

 「あ…うん…翔馬…涙…」


 魔呼が僕の顔に手を伸ばす。

 いつの間にか零れ落ちていた涙を魔呼の指が掬い取った。

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