覚醒
僕は努めて平静を保とうとするが、小山田が魔呼を救出した事でこの場を早く立ち去りたいという焦りを止められなくなっていた。
でも、ここまで来たんだ。
最後まで粋がってやる。
「別に何も企んでやしない。ただ…」
脳に届く映像がこの館の外にある門扉を映した。
無事外へ出られたようだ。
「忘れ物が見付かって嬉しくなっただけだ!」
言うと、僕は館の入口に向かってダッシュした。
『ん?』
扉の外に飛び出て庭で一回転。
上手く受け身を取るとすぐに立ち上がり門扉に向かって全力で駆ける。
門扉が閉まっていく。
『何処へ行こうと言うのかな?』
背後から魔武の憤怒の声が聞こえる。
あと5m。
ブシュッ!
何かを切り裂くような音がした。
が、僕の体に異常は無い。
そのまま門扉の外へ出ると、魔呼が街路樹にもたれて座っていた。
魔呼の元へ駆け寄ると魔呼は弱々しい笑顔で僕を迎えた。
小山田は?
館の方へ振り返る。
門扉の中に小山田が立っていた。
「何してる小山田!行くぞ!」
小山田はゆっくりとこちらに振り向いた。
小山田の家で見せた爽やかな笑顔。
上半身が斜めにずれ落ちていく。
え?
「鳥居君…魔呼さんに…ありがとう…と…伝え…て…」
ドサッ…
小山田の上半身が芝生の上に転がった。
「手応えがあったと思ったらもう一匹鼠が居たのか。」
憎々し気に魔武が吐き捨てるように呟いていた。
「今…何つった?」
「うん?」
魔武がゆっくりと僕に近付く。
僕は近付く魔武を凝視しながら、魔呼を抱いて立ち上がる。
腕の中で魔呼が苦し気に呟いた。
「翔馬…逃げて…私はいいから…」
「馬鹿言うな。」
魔武がニヤっと笑う。
「ほぅ…ボクとやろうってのかい?」
「ダメだ翔馬!早く…」
魔武が一歩ずつ近付いてくる。
「逃げられるもんか。まぁ、魔呼をこちらに渡せばそのまま帰らせてあげ…え?」
魔武の被っているフードに紫色の光が刺さる。
僕の額から伸びた紫色の光。
「えっ?」
魔呼が驚きの声を上げながら僕の顔を見上げる。
「勘違いするな…お前は…ただで済むと思うなよ…」
言い終らぬ内に、再度紫色の光が僕の額から魔武に向かって走った。
「ぐっ!?」
光は魔武の右手を貫いた。
「調子に乗るな!」
魔武が左腕を払うと、轟音と共に目の前に炎の壁が立ち昇る。
炎を紫色の光が切り開き、そのまま魔武の左腕を肩から切断する。
「ぐあっ!」
苦痛の呻き声を上げた魔武がその場に膝を付く。
「な、何だこいつは…」
僕は魔呼を抱いたまま魔武に近寄って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます