いざ参らん
公園の神棚の祠の裏側は、前に魔呼が開けた黒い穴がそのままになっていた。
誰かが入って行って無ければいいのだが。
まぁこんな場所に好き好んで回り込む人も居ないだろうから大丈夫だろう。
「ここですか。」
「うん。この穴を通ると魔武の屋敷が正面にあるんだ。」
僕と小山田は穴の前に並んで立って穴を覗き込んだ。
愛乃は何かあってはいけないので家に帰した。
見付からないのはいいけど触れないのでは行ってもあまり意味は無さそうだったから。
僕が先に穴をくぐり、続いて小山田が僕に続いた。
少し歩くと、以前と同じ街路樹の並ぶ通りに続き、その向こうに鉄柵に囲まれた古い屋敷が見えてきた。
「今は可能性を信じましょう。」
僕の不安を感じ取ったのか、小山田が励ましてくれる。
魔武の館の門扉前に着くと同時に、重たい音を立てて門扉が開いた。
入って来いという意味だろうか。
門扉をくぐり館の玄関へ着くと、またその扉が静かに開いていく。
上等だ。
行ってやろうじゃないか。
館の中へ一歩踏み込む。
と、何処からか魔武の声が聞こえて来た。
『いらっしゃい。確か翔馬君だったか…一人で何をしに来たのかな?』
よし…小山田の姿も気配も感じていないようだ。
「まずは姿を見せてくれ。話がしたい。」
『姿など見せずとも話は出来るよ。何の話がしたいのかね?』
まぁそう来るよな。
「僕は死んだ時、天界と地獄の門を越えて飛ばされた。話では死の直前に何か心理的な衝撃があったらしい。けど記憶が無くなっていてそれが何なのか分からない。それに魔武、君が関与しているかもしれないと聞かされた。何か知っているなら教えて貰いたい。」
ゆっくり噛み締めるように声を大きくして訊いた。
静かに館の奥へ進んだ小山田の気配を少しでも気付かれないようにする為に。
『前にも言ったが、それを君に教えてボクに何かメリットはあるのかな?』
小山田…頼むぞ。
「僕が成仏する為に必要なだけだ。僕が成仏すれば魔呼さんはもう僕に関わらなくなる。そうすればあんたの所に戻るんじゃないか?」
『あっはっは!君は面白い事を言うね。それじゃまるでボクが君に魔呼を取られているみたいじゃないか。』
「だが事実だろう?」
空気がピンと張り詰める。
ちょっと煽り過ぎたか?
『人に不愉快な思いをさせるのはあまり感心しないね。』
「それは悪かったな。」
その時脳内に映像が刷り込まれる。
魔眼が通った。
でかしたぞ小山田!
『何を企んでいるのかな?』
ヤバい?
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