対峙
まるで魔武の左目が僕の体を縛り付けたようだ。
ぴくりとも動けないぞ。
「魔武止めろ。今日は話を訊きに来ただけだ。」
魔呼が僕と魔武の間に立ち塞がる。
魔呼の体が壁になったせいか、体が動くようになった。
僕は肩を大きく上下させて呼吸を整える。
「ま、いいだろう。で、話って?」
「翔馬の魂を飛ばした原因…何か知っているかと思ってな。」
いつもの魔呼の可愛らしい声では無い。
何だか気に入らない奴を脅すような口調だが、その声は微妙に震えているように聞こえた。
「さぁ…どうだろう?」
「魔武…!」
「色々あるから全部覚えていられないし、仮に覚えていてキミたちに教えたとして…ボクに何かメリットはあるのかい?」
魔呼の両手が固く握られている。
「ま、オマエには期待などしていなかっ…っ!?」
言い切らぬ内に魔呼の体が僕から見て右の方へ飛ばされ、街路樹に叩きつけられて地面に落ちる。
「え?」
視界に入った魔武は左腕を水平に広げて静止している。
あれだけで、あんなに強い魔呼を吹き飛ばしたと言うのか?
「まったく…未来の夫をオマエ呼ばわりとは。」
肩を竦める魔武が僕の方をじっと見て言葉を続けた。
「さて、情けない所をお見せしてすまないね。他に何も無ければお引き取り頂けるかな?」
「ぐっ…!」
魔武が左腕を動かすと、魔呼の体が浮き上がって魔武の方へ引き寄せられ、そのまま魔武の腕の中へ抱かれた。
魔呼は僅かに僕の方へ顔を向けるだけだった。
「ボクの妻になる女性が失礼をしたね。きちんと躾をしておくから、ボクの顔に免じて許して貰いたい。」
そう言うと、魔武はくるっと背中を向けて館の方へ歩いて行ってしまった。
僕は来た道を帰って行くしかなかった。
あれ?
愛乃は?
振り返ると愛乃は僕の後ろを普通に歩いて着いて来ていた。
「あぁ良かった…何処か行っちゃったのかと思った。」
愛乃が何やら考え込んでいるような顔をしている。
「愛乃…どうした?」
「うーん…いやね…さっきの魔武って人なんだけど…」
「うん…」
「多分私の事見えてないよ。」
「え?」
「だって私、翔馬の後ろに隠れてはいたけど、翔馬の横とか股の間とかから顏出しても全然気付いてない感じだったもの。」
何やってんだ。
「普通私たちが幽霊を見えないように、あいつから普通の人間は見えないんじゃない?」
「そんな都合のいい事ってあるかな?」
「んー分かんない…」
「だよね。」
とは言え、有り得なくもない…かもしれないな。
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