逆上

 魔呼が僕の手に指を絡ませてモジモジしてる。

 絶対何か勘違いしてる。


 「あ、あの…魔呼…さん?」

 「もぉ…『魔呼』って呼んで?」


 は?

 何それ?


 「『魔呼が欲しい』だなんて…大胆なんだからぁ…」


 そんな事一言も言ってませんけど?


 「いや、あの…」


 魔呼が長い爪で僕の胸に『の』の字を描いている。

 穴開きませんかそれ?

 また魔眼埋め込むつもりですか?


 傍から見たら、言い寄って来た女がハッキリしない男とイチャコラやってるようにしか見えないかも…って大抵の人間には見えないのか。


 と、忘れ去られていた小山田が僕たちに向けて大声で叫び、さっきのように猛烈に突進して来た。




 「なっ!?」


 身構えようとした瞬間、僕から一歩下がった魔呼の右手にはいつの間にか金色に輝く槍が握られていた。


 そして魔呼の顔は…








 怒りに満ちていた!








 「邪ぁ魔すんなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」








 魔呼が雄叫びを上げて振り向きざまに渾身の力を込めて槍が放たれる。

 綺麗なフォロースルー!

 空気に大断層が形成される。

 魔呼の手から槍が離れてコンマ数秒後…








 バンッ!!!!!




 ソニックブームだ!




 周囲の空気が槍に引っ張られ、槍の後方から『ゴォッ!』とも『ボンッ!』とも聞こえる形容しがたい音が遅れて着いて行き、嵐のような奔流が発生する。


 僕の二つの目では全く捉えられなかったが、額の魔眼が槍の航跡を追っていた。

 しかし魔眼が槍を認識すると同時に、その向こう側に居た小山田の胸に吸い込まれていった。

 魔眼でも捉え切れない?


 小山田の背後にある瓦礫が消し飛ぶと同時に、魔呼が僕の目の前から大きく跳躍し、一瞬で小山田の目の前に現れた。

 その右手には巨大な刀が握られ、大きく振りかぶっている。




 る気だ!








 「魔呼そこまでだ!!!」


 振り下ろされた刀が小山田の額の1cmほど手前でピタッと止まった。

 小山田は白目をむいて意識を失っているようだ。


 「ふぅ…」


 間一髪。

 小さく溜息を吐いて顔を上げると、目の前に魔呼が不満そうな顔で立っていた。


 「うゎ!」

 「何で殺らせないのよ?」

 「殺っちゃダメでしょ!」

 「何でよ!?私とあんたの邪魔しようとしたんだよ!?」

 「そんな理由で殺るんじゃないっ!」


 シュンとする魔呼。


 「折角いい雰囲気だったんだよ?」


 何がだよ。


 「貴重な情報源なんですから簡単に殺らないで下さい。」

 「わ、分かったよぅ…」


 魔呼が急にしおらしくなってる。

 何か怖い。




 しかしこの件で、魔呼は怒らせてはいけないと思い知らされた。

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