お願いします

 立ち上がった小山田が此方をじっと見ていた。


 「へぇぇ…そういう事か。」


 魔呼は相変わらずの楽しそうな声で何かを掴んだらしい。

 何となく、聞かない方がいいような気がしたけど。


 「あいつ、なんてもんじゃないわね。憑かせた下級魔を支配下に置いてるわ。」


 ほら…聞くんじゃなかった。

 絶対ヤバいやつじゃん。


 「この前もさっきも、あんたの光で退魔したのはあいつが支配してる下級魔だけって事…だから…」


 魔呼の続けた言葉に、僕は後ろに倒れそうになった。




 「あいつ本人を倒さないと終わらないわね。」


 ひえー!

 人間を倒すって…それって…


 「あいつ倒せばあんたヒーロー…いや立派な『守護神』になれるかもよ!?」

 「いやいや!そんなのなりたくないですよ!」


 魔呼は僕の後ろにくるんっと回り込み、背後から抱き付いて耳にかじり付かんばかりの距離に唇を寄せた。


 「あらぁ?あんたの大切な人がどうなってもいいって言うのかなぁ?」

 「え?」

 「あいつの欲望の源…何だったか忘れたのぉ?」

 「う…」

 「それに、あんたが飛ばされる程受けた、まだなんでしょ?」


 そうだった。

 事故の原因は大体分かったけど、あくまでも物理的な衝撃しか判明していない。

 確か、飛ばされたのは『心理的な衝撃』だと言っていた。

 それは小山田が絡んでいるかどうかは分からないけれど、結局それを解明するには一つずつ潰し込みをしていくしかないわけだ。




 「分かった。でも…」

 「うん?」


 魔呼が僕の顔を覗き込む。


 「僕はまだ一人じゃ何も出来ない。魔呼さんが簡単にあしらえるような下級魔にすらサポート無しでは勝てる気がしない。」

 「うんうん。」

 「だから、もう少し僕に力が付くまで一緒に居てくれませんか?僕にはまだ、魔呼さんが必要なんです。」


 気が付けば僕は魔呼の両手を握り、目をじっと見詰めながら真剣な表情でお願いしていた。




 ぼんっ!




 と音がしたかどうかはともかく、魔呼の顔が真っ赤に…いや、元の肌が黒いので赤かどうかは分からないけど、一気に熱っぽくなったのは分かった。




 「なっ…!なによっ!いきなりそんな…事…言われたら…」

 「お願いします!」

 「あうぅ…」


 魔呼が体をもじもじさせながら僕に握られた手を逆に握り返したり指を絡めようとしたりしている。


 「もっ…もぉっ!こんな所で…大胆なんだからぁ…」


 何か勘違いされた気がしないでもないが…大丈夫なのか?

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