違う

 明け方、陽が昇る少し手前になって龍樹は眠りについた。

 僕は眠気を感じる事も無く、眠っている龍樹に『また来るよ』とだけ言って部屋を後にした。


 事故の概要は大体分かった。

 後は、小山田を…と言うか小山田に憑いている下級魔を何とかしなければ…とは思うのだが、果たして僕に何とか出来るものなのだろうか。


 考え事をしながら、僕は陽が昇って明るくなり始めた街の上空を漂っていた。




 今日は何を調べようか…調べるにはやはり愛乃の協力が必要だよなぁ…などと考えていた時、突然額がチリチリと痛みだした。

 瞬時に身構えて地上を見渡すと、ひと際禍々しい黒い渦を中心に、小山田が上空に浮かぶ僕を睨んで立っていた。


 いや、小山田に憑いている下級魔か?




 「おぃ小山田!…って呼び方で合ってんのかな?下級魔の名前は小山田じゃないだろうし…」


 と頭の中を整理しようと小山田から目を離した次の瞬間、奴は僕の目の前に文字通り来た。


 「えっ?」


 飛んで来た小山田が僕の喉を掴む。


 ぐっ!


 「掴まれた!?」


 指が首にめり込み首を締め上げてくる。


 しかし苦しさや痛み以上に、魔呼以外の者に触れられた事に困惑した。

 そうか…なら僕に触れられるのか。


 目の前で明らかな憎しみを込めた小山田の表情は、最早同級生のそれとは別の存在のように思えた。

 その小山田とは別のような奴が口を開いた。


 「貴様が…居るから…愛乃はぁぁぁっ!」








 違う。




 こいつは!?

 なら何故?

 僕が見える?

 僕に触れられる?


 考えている間も僕の喉を捉えている小山田の指が首に食い込んでいく。


 がぁぁ…し、死ぬ…




 って死んでるのに死んだらどうなるんだ?

 漫画やなんかだと、魂を消されたら存在自体があの世からもこの世からも消されて二度と復活出来無いとかいう設定だったりするけど。


 「貴様が居なければっ!愛乃は俺を見てくれるんだっ!」


 「なにを…かっ…てな…こと…を…」


 薄れる意識の中で辛うじて言葉を吐き出す。

 小山田が僕の首を掴んだまま振り被り、僕の体を地面に向けて投げ飛ばした。












 ふわっ




 地面に叩き付けられるかと思ったが、何やら柔らかいものに包まれるような感覚で落下が止まる。




 ん?




 げほげほと咳き込みながら見上げると、そこには魔呼が居た。

 僕は魔呼にお姫様抱っこのような体勢で受け止められていた。


 「まったく…頼りないんだから。」


 魔呼は僕の方ではなく、空に浮かぶ小山田の方を燃えるような瞳で睨み付けていた。

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