事故の原因

 僕は夜の街の空をふわふわと漂っていた。

 愛乃の事、龍樹の事、小山田の事…色んな人の事を考えながら。


 そう言えば、龍樹の怪我…ちょっとヘマをしたと言っていたが、あの運動神経の塊のような奴がどうヘマをすればあんな怪我をするのだろうか?

 どうせ明日まで暇なのだし、ちょっと龍樹の家にお邪魔してみよう。




 龍樹の家の上空に着く。

 龍樹の部屋は2階の道路とは反対側だ。

 窓からは明々と照明の明かりが漏れている。

 僕はその窓から龍樹の部屋を覗き込んだ。


 龍樹はベッドに寝転んでスマートフォンを見ている。

 時折笑みを浮かべ、また真顔になり、そして寝転んだまま目尻から涙を流して。


 「翔馬…俺…どうすりゃいいんだろうな…」


 龍樹が呟く。

 どうすりゃ…って何をだ?

 と言うか、俺と撮った画像でも観て泣いてたのか?


 「ふっ…女々しい奴め。」

 「誰だ?」

 「え?」

 「その声…翔馬か?」


 まさか龍樹にも僕の声が聞こえる?

 前に愛乃と来た時は聞こえていなかったような…。

 僕は龍樹の目線まで下りて龍樹の正面に浮かんだ。


 「しかし僕との画像観て泣くなよみっともない。」

 「しょ…翔馬…どこだ?姿は見せられないのか?」


 あぁ、声は聞こえるけど見えないのか。


 「見せられないんじゃなく龍樹に見えないだけだな。」

 「親友じゃないのかよぉ!?」

 「親友と見えないってのは関係無いだろ。」

 「ぷっ…」

 「ぶふっ…」


 僕と龍樹は声を出して笑った。

 しかし愛乃と言い龍樹と言い、僕が幽霊になってると言うのに何も疑わないのは本当に有難い事だ。


 ひとしきり笑い合った後、龍樹が事故から後の話を聞かせてくれた。




 あの日、交差点で信号待ちをしていると、突然僕が車道に飛び出したらしい。

 でも、自分から飛び出したんじゃなく、感じで。

 龍樹は咄嗟に僕の腕を掴もうとしたが、手を伸ばした時、既に僕の体は車道まで飛ばされていた。

 僕が居た後ろを見た時、そこには生気を失ったような顔をした小山田が立っていた。

 小山田は龍樹の顔を見ると、ニタァっとこの世の者とは思えない薄ら笑いを浮かべていたが、そのまま人ごみの中へ消えていった。

 僕の葬式の後、小山田を呼び出した龍樹はいきなり飛び掛かられ、その時に左足の靭帯を痛めてしまったらしい。




 案外事故の原因はあっさり分かった。

 恐らく龍樹の言っていた『解決したら』は小山田絡みだろう。


 何となく把握出来た僕はそれ以上突っ込まず、色んな話をして夜を明かした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る