始動

 龍樹の家から愛乃の部屋に戻ってきた僕と愛乃。

 結局分かったのは『龍樹が全て知っている』と言う事だけで、具体的に何を知っているのかは掴めなかった。


 「龍樹は何を知ってるんだろうな?」

 「分からなかったね…」

 「あいつがあんな怪我してたのも意外だったけど。」

 「一条君、運動得意だったのにね。」


 ベッドに寝そべる愛乃と、その真上に浮かぶ僕。

 徒労感だけしか感じない。

 いや、僕はそんなのも感じないわけだけど。


 「『解決したら』って…何が解決したらなんだろうね?」

 「うん…全然分からないけど…龍樹が何かを知っていてそれを探ろうとしてるって事なのかも…」

 「それが分かるまでは教えられない…って事かぁ…」

 「あいつ昔から何でも一人で背負い込む癖があるから…ん?」


 僕は妙な胸騒ぎを覚え、顔を龍樹の家の方向へと向けた。

 額がチリチリと痛む。


 「どうしたの?」

 「いや…何か龍樹の家の方から嫌な感じが…」


 左右の目で見えているものでは無い。

 額…『魔眼』!?

 脳に直接映像が入り込んでくるような感覚だ。

 壁も塀も通り抜け、龍樹の家の近く…ピントが龍樹本人にフォーカスする。


 「龍樹…さっきの公園?」

 「ねぇ、一条君に何かあったの?行ってみる?」


 消えない胸騒ぎと、龍樹から漂う黒い渦のようなものに、普通ではない雰囲気を感じた僕は、直感的に一人で行った方がいいと判断した。


 「愛乃はここで待ってて。家から出ないようにね。」

 「えぇ?私も行くよ!」

 「駄目だ。」


 僕の只ならぬ雰囲気を感じ取ってくれたのか、寂しそうにではあるが家で待っていると約束してくれた。


 僕は愛乃の部屋から壁をすり抜けて外へ飛び出すと、龍樹の家の方で渦巻く黒い影を睨んだ。












 「魔呼!!!来いっ!!!」




 僕の額の魔眼と繋がっている女の子の名前を叫ぶ。

 額の魔眼が紫色に輝き、空に真っ黒な裂け目が現れる。












 どかっ!!!!!




 「いってぇぇぇ!!!」


 いつの間にか僕の背後に現れた魔呼が、棘だらけの棍棒を片手に現れていた。

 あれで人の頭殴りやがったのか。


 「死んじゃうでしょうがっ!!!」

 「あんたもう死んでる!あんた如きが何で私を呼んでんのよっ!」

 「でも呼んだら来たじゃん!」

 「でもじゃない!雑魚がかっこ付けんな!立場を弁えなさい!」


 雑魚…。


 「い、いや、それどころじゃなくて…」

 「んん?」


 魔呼もまた龍樹の家の方から立ち上る黒い影に視線を移す。


 「あれは…?」


 魔呼の目がきゅっと細められた。

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