手始め
差し当たって、事故の直前に何があったのかなのだが、その部分の記憶が綺麗さっぱり抜け落ちているのでそこから一歩も進めないで居る。
「事故の前かぁ…いつも通り学校行って終業式出て通信簿貰って下校して…って流れよね。」
事故当日も僕は愛乃と一緒に居たので、愛乃の行動を辿れば僕の動きにも繋がる。
しかしこれと言っていつもと違う事があったような感じでは無かった。
「そう言えば、僕が事故に遭った時って愛乃も一緒に居なかったよね?」
「うん、私は終業式終わって友達と街に出るからって学校で別れたから。」
「となると、一緒に居たのは龍樹だけか。」
愛乃が僕の方へ顔を向ける。
「一条君が何か知ってるかな?」
「分からないけど記憶に残ってるのはそこだけだからね。まずは龍樹からだけど…」
「ん?」
「あいつに僕が見えるのかな…と思って…」
僕の真下に居る愛乃は何故か嬉しそうな顔をしている。
「どうしたの?」
「この世で翔馬の姿が見えて声が聞こえるのは誰でしょうか?」
「え…愛乃…?」
「正解。となれば翔馬の言葉を他に伝える手段は?」
「おいおい正気かよ。」
幽霊の言葉が聞こえてそれを伝えるなんて事したら、愛乃は頭がおかしい子かと思われてしまうじゃないか。
いくら切羽詰まってるからと言ってもそんな事頼むわけにはいかない。
「大丈夫よ。さすがにそこまで馬鹿じゃないわ。」
愛乃が言うには、『あくまでも愛乃個人として訊き込みをする』『翔馬(幽霊)の事は言わない』『バレそうになっても最後までシラを切り通す』との事だが、まるっきりミステリーショッパーの手順じゃないか。
とは言え他に方法も無いので愛乃に頼るしか無いのだが。
「まず訊きたいのは事故直前の状況ね。」
「うん。立っていた位置から見て僕だけ車に跳ねられたってのが分からない。」
何かに書いて説明出来ないのがもどかしいが、愛乃が飾ってあったシルバニアファミリーの人形を使って『もうちょい右』とか『もっと手前』とか言いながら、何とか位置関係を伝える。
「そうね…この角度だと一条君も跳ねられてる筈よね…」
「だろ?けど現実は僕だけ跳ねられた。跳ねられた僕に龍樹が駆け寄ったところまでは覚えてるから間違い無いよ。」
「翔馬のお葬式でも一条君凄い泣いてた…」
「一番の親友だったからなぁ…」
少ししんみりとした空気になった。
「取り敢えず行ってみようよ。」
愛乃が元気よく立ち上がり、僕に手を差し伸べた。
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