久々の現世へ

 魔呼の元を離れた僕は、魔呼に教わった通りの道をトボトボと歩いていた。

 しかし現世で覗いて来ると言っても、何処で何を覗けばいいのか。

 何のアテも無いまま歩き続けていると、目の前に古ぼけた門のような構造物が現れた。

 構造物のすぐ傍には下りの階段があり、先は霞んで見えない。


 「これを下りて行けばいいのかな?」


 僕は先の見えない階段を一段ずつ下りていった。








 どれくらい下りたのだろうか。

 階段の先に扉のようなものが見えた。


 「あれが出口?」


 足早にその扉に近付くと、扉は僕の到着を待っていたかのように左右に開かれた。

 促されるように扉の向こう側へ進む。

 と、背後で扉がバタンと音を立てて閉まる。


 「ここから…現世なんだ…」


 何となくそんな感じがした僕は、辺りを見回しながらゆっくりと先へ進んだ。

 やがて、ぼんやりとではあるが見覚えのある景色が足元に広がってくる。


 「此処は…僕の住んでた町…?」


 あの4階建ての建物は…僕が通っていた高校だ。

 そこから東へ行くと…そう、小さな橋が掛かってる。

 橋の向こうにはコンビニがあって…その角を右に曲がれば大通り。




 あの大通りで僕は車に跳ねられたんだった。




 しかし今になって思うと、確か龍樹と一緒に信号待ちをしていただけなのに、何故僕だけ車に跳ねられたのだろうか?

 確かに龍樹は僕より少しだけ後ろに居たと思うけど、もし車が信号待ちをしていた僕たちの所へ突っ込んで来たのなら、僕だけじゃなく龍樹も跳ねられていた筈だ。

 事故に遭った時の記憶が飛んでしまっているのでよく分からない。

 まずはそこから確かめた方が良さそうだ。


 が、どうやって調べればいいんだろう?

 こんな真昼間から幽霊なんて妙な話だ。

 いや、それ以前に僕の姿は現世の人に見えるのだろうか?

 声は聞こえるのだろうか?


 取り敢えず何事もチャレンジと言う事で、まずは地上に降りてみようと思い、事故に遭った信号のある交差点に降り立ってみた。








 まぁ、見えないよね。


 普通にサラリーマンやOLが僕の体に当たって来るけど、何の感覚も感じられずにそのまま通り過ぎて行く。

 試しに声を掛けてもみたが、全く耳に届いていない様子。


 さぁ困ったぞ。

 聞き込みも何も出来無いじゃないか。

 となれば、一番手っ取り早いのは事故調書を取った警察に行って資料を覗き見る事だが…。


 と、信号機の柱に手を掛けようとすると、すかっと手が柱を通り抜ける。


 物も触れないのかよ。

 本気で困ったな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る