1ー3 最初の狩り
視線の先には殻が2m程ある巻き貝。
アイアンボイナである。
アイアンボイナは肉食の貝で、強力な毒針を他の貝や魚に突き刺して自由を奪い捕食する。
また、岩を食べることも確認されており、鉄のような金属で構成された殻は、その岩の成分から成っていると考えられている。
毒針に刺されれば命は無いだろうが、かといってミスミス逃す訳にもいかない。
そもそも道中の食事は狩り頼りなのだから。
ティモはジリジリと、しかし確実にアイアンボイナに近づいていく。
毒針は1本、そして他の貝類の例に漏れず動きは緩慢だ。
基本的に、人間が負ける相手ではない。
おそらくアイアンボイナもこちらに気づいているだろう。毒針のある触手がこちらに向こうとしているが、体全体がティモに背後を向けているせいで届かない。
ターンも実にゆっくりとしたものだ。
ティモは常に背後を取りながら距離を詰め、体の、殻からギリギリ出ている根元部分に槍を突き刺した。
ここが一番内臓に近い。
アイアンボイナが殻に潜ろうとするのに対してティモは槍を更に深く突き刺した。
槍の柄が殻に引っ掛かり殻に潜る事ができないでいるアイアンボイナに今度は貝殻ナイフで切りかかる。
これも貝殻の根元を狙った。
アイアンボイナの触手は狙いを定められずに宙をさまよっているが、念のため常に触手とは貝殻を挟んで反対側の位置取りで攻撃を続けた。
そうして暫く切りつけていれば、次第に触手の動きも弱々しくなり、遂には完全に動かなくなる。
これで狩りは終わりだ。
ただしまだ僅かに息がある可能性がある。
殻に引っ掛かっている槍を抜いたら、地面に力なく倒れている触手の先端に上から突き刺し、完全に地面に縫い付ける。
その状態で触手をナイフで根元から切ってしまえば今度こそ完全に狩りの終了である。
仮にまだ生きていても、毒針が無ければ脅威ではない。
ティモは貝殻の隙間に潜り込み、奥で体と接合している部分を切ると、貝殻を体全体で押し、アイアンボイナの体の上から転げ落とした。
最も栄養のある内臓部分を切り取りかぶりつく。
やはり旨い。
たまに帰って来た父が食べさせてくれたことを思い出す。
父は猟師だ。
猟師には2種類あり、材料性生物を狩る材猟師と食料性生物を狩る食猟師がいる。
父はその材猟師だった。
食料性生物は言わずもがな、食料となる生物で、材料性生物はその身体の一部または全部が何かしらの材料となる生物である。
触腕が動力設備に利用されるフシクラゲは材料性生物の一種だ。
そしてアイアンボイナは、その肉は食料となり、貝殻は鉄製の道具の素材となる。
両性生物である。
父がいつも狩っていたのは、その貝殻が目的で、材料の卸業者に売っていたが余った肉を食料の卸業者に売る権利は、食猟師にしか与えられていないため、自分達で食べる分を切り取って持ち帰っていたのである。
ティモはどちらの猟師でもない。
狩ること自体は自由だが売ることはできないし、そもそもこれを運ぶ手段がない。
もったいないが、放置していればそのうち魚が処理してくれるだろう。
ティモは大体3日分くらいの肉を切り取って、再び歩き始めた。
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