1ー2 ソーヤ村

ティモ・ワーグナーはバーム国の北のはずれにあるソーヤ村で育った。


バーム国はバーム山周辺に発展した国でバーム山の豊富な熱資源を得て人々が暮らしている。


中心地から離れたこのソーヤ村は、人が住めるギリギリの水温で、大体30℃程度、しかし年間を通して強い湧昇流ゆうしょうりゅうが付近にあるため、動力資源が豊富で、辺境の村としてはかなり利便性の良い村であった。



村の北側にある水車で湧昇流の動力を取り出し、フシクラゲの触腕に伝えられる。


フシクラゲとは、鋼のように丈夫で、それでいてしなやかな触腕を持つクラゲで、その触腕が長く、節があるようにボコボコしていることから名付けられた。


そのフシクラゲの触腕は、職人の技術によって、何本も繋ぎ合わせられ、全長が十数kmにもなる輪っかへと加工される。

その輪っかが、村中の動力塔に張り巡らされており、水車の動力を村中に伝えている。


つまり、クラゲの触腕が常に村の上で周回している状態である。



この動力は、各動力塔から各家庭へと配られ、家庭内のファンを稼働したり、動具どうぐを動かすのに使用される。



この水車から各家庭への動力供給設備は、各村に必ずあるものであるが、地域によっては大本の海流が弱い所もあるため、ソーヤ村程大出力で安定した動力設備を持っている所は、街以下のところには他にない。




そんな故郷のソーヤ村を出るティモに迷いは無い。暫く戻ることのできない寂しさはあるが、自分の夢を叶える為にティモは一歩踏み出すのだ。

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