隕石マン
「なんだあれ。」
東京の上空。昼間の空に赤く光る星があった。
一人の若者が空を指差した。その友人たちも空を見た。
「隕石じゃん。」
それを聞いた通りすがりのサラリーマン。汗を拭きながら空を見た。動きが止まる。
そのうち波紋は広がっていき、ついに
「隕石だーーーーーー!!!」
パニックになる東京の街。少し遅れてニュース速報。
「みなさん、頑丈な建物に避難してください!落ち着いて避難してください!」
ニュースキャスターが必死に呼びかけるが、東京の人々はわかっていた。
隕石に耐えうる建物なんてないし、避難と言ったって地球から脱出しなければ意味がない。
街はパニックを通り越し、静かになった。みんなが生を諦め、各々に人生を振り返り始めた。
隕石は先ほどよりも大きく見え、確実に近づいてきている。
と、その時、地上から隕石へ飛んでいく物体があった。
小さくて何かわからないが、あの小さな物体がこの絶望的状況を覆すはずはなく、人々は気にしなかった。
物体はミサイルのように隕石に向かって飛んでいく。
ドカーーーーーーーーーーーン。
飛んで行った小さな物体と衝突した隕石は粉々に砕け散った。
東京の街にキラキラと隕石のかけらが降り注ぐなか、人々はあまりにも突然なことに呆然としていた。
砕けた隕石が作る雲のような煙の中から、先ほどの小さな物体が出てきた。
静まり返った東京の街に、それは降り立った。
隕石を砕いたそれは、人の形をしていた。全身タイツにマントというふざけた姿だが、彼が東京を救ったのは確かだった。
「私は隕石マン!この街の平和は俺が守る!!」
ワーー!と、大きな歓声。危機から解放された街は熱狂に包まれた。
誰なのか、なんなのか、どうやったのか。様々な疑問は置いておいて、人々は危機を救ったヒーローに感謝して賞賛した。
その日からメディアは彼を英雄として讃え、連日ニュースで特集された。
隕石マンは積極的にテレビに出演し、隕石マンブームが起こった。グッズ化、アニメ化、書籍化。ありとあらゆる商業的な展開がされた。
その一方で東京の街に隕石は何度も落ちてきた。が、隕石が来ては隕石マンが打ち砕き、盛り上がる。東京の危機はイベントへと変わっていった。
そのうち、ブームも落ち着いてきて、隕石落下は日常となり、隕石が来た時に空を見上げる人は少なかった。
隕石を砕く時の爆音が問題視され、もっと静かに壊せないのか。という者もいた。
ある日、隕石が降ってきた。それを見た若者は「あ、隕石。」といったが、友人はスマホをいじり続けていた。
それを聞いた通りすがりのサラリーマンは汗を拭きながら無関心にそのまま歩いていった。
ゴゴゴ。音がする。空を見上げるといつもより隕石が近いように思えた。
「遅いな、隕石マン。」
ゴゴゴ。
「え?近くない?大丈夫なの?」
ゴゴゴ。
「やばいって!やばい!」
ゴゴゴゴゴゴ。
ドガーーーーーーーーーン。
隕石マンは隕石を砕いた。
「みんなお待たせ!もう安心だ!俺がいれば大丈夫!」
人々は忘れていた恐怖を思いだし呆然としていた。そして、
「遅えよ!!何してたんだ!」
「隕石砕くのがお前の仕事だろ!もっとちゃんとしろよ!」
「私たちがどれだけ怖い思いをしたかわかってるの?」
「お前がきてから隕石増えてんじゃねーか?」
人々は口々に不満を口にした。まるで不手際をした政治家を罵倒するように、完璧に仕事をするのが当たり前かのように。
東京の危機を救った彼に対して感謝の言葉をかけるものはいなかった。
隕石マンはそのまま去っていた。
ニュースでも「あわや、大惨事!」の見出しで隕石マンを批判した。
一人のコメンテーターが言った。
「これで隕石マンが怒って来てくれなくなったらどうするんですか?」
次の日。また隕石は降ってきた。
隕石は迫ってくる。
「またかよ。遅いな。」
隕石は迫ってくる。
「おい、昨日より近いぞ。」
ゴゴゴゴゴゴ。
「まさか、、来ない?」
隕石の熱を肌で感じながら人々は叫んだ。
「隕石マーーーーーン!」
ドカーーーーーーーーーーーン。
東京の街に隕石は落ちた。
それから隕石マンは隕石を落とすのをやめた。
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