行列

アオキは階段を登っていた。

神社の階段というものは登りやすさをあまり考慮していない。

絶妙に高いその石段は、一歩一歩アオキの足に疲労を溜めていく。

この山の頂上にある神社が注目されているのは、そのご利益などではなく山の頂上から見える景色にあった。

軽い気持ちで来たアオキを待っていたのは2000段を超える石段だった。

疲労で景色のことなんか忘れかけていた頃、広場のようなところへ出た。

ここが頂上か、と一瞬思ったが奥にはまた石段が見えた。

どうやらここは一時の休憩場のようなところらしく、茶屋などがあり、商売は石段のおかげで繁盛しているようだ。

少し休憩していこうと思ったところで、何やら人だかりが見える。

頂上へ向かう石段とは別のところに何やら道があり、そこに行列とも言える人の群れがあった。

何だろうと見ていると「はあーーー。何だよ!」と行列を見て落胆の表情を浮かべる男がいた。

どうやらあの行列の奥にあるものを見にきたらしいが、あの混みように悄然としている様子だった。

しかしアオキはこの奥にあるものが何なのかわからなかった。もしかして近道でもあるのだろうか。

そう思い、男に聞いてみる。

「あの、すみません。あの行列は何が目当てなんですか。」

男は一瞬、考えるようなそぶりを見せたが「この先にはな、絶景があるんだとよ。」と言った。

初めて聞いた情報にアオキは「いったいどんな?」と男に尋ねる。

「それは、自分で確かめてみないと。」そう言って男は帰っていった。


気になったアオキは、石段に疲れていたこともあり行列に並び始めた。

ラーメン屋の行列とは違い、行列は常に進み続けるがその足取りはまさに牛歩という言葉が相応しかった。

いったい何があるのだろうか、期待感を募らせながら木々に囲まれた小道を進む。

しかしこんなに行列ができるほどなのに、なぜ自分は知らなかったのだろうか。

疑問を浮かべていると道幅が広がり、行列にも隙間ができ始めた。

そんな広い道の脇にまるでバーゲンセールに群がっているような人だかりが見える。

それがこの行列の終着点であり、目的だということが一目でわかった。

早く見たいという一心から割り込むように強引に入っていく。


最前列に出ると、そこにあったのは池だった。

周りの木々の葉と同じくらい緑に濁った池。

「これが、、絶景?」

どこかに何かあるのではないかと目をこらすが、どれだけみてもただの池にしか見えなかった。

困惑して周りを見渡してみると、他の人たちもアオキと同じような顔をして、他の人の反応を伺っていた。

人だかりを出る。そういうことだったのか。

歩いてくる人たちはこの人だかりを見て、皆が絶景に群がっているんだと思い込み自分もそこへ加わる。

しかし、実際にあるのは何も変哲も無い池。それに気づいて帰る頃には、また新しい人が並んでいる。

そうやってあの人だかりはできているのだ。人が行列に並びたくなる心理があの不可解な状況を引き起こすのだ。

その先の道は、人だかりに人が集まったことにより空いていた。

本当の絶景はこの先にあるのだ。


進んでいくと石段があった。

さっきまでの石段に比べると短く先が見えていた。

あの先に絶景があるのか、早足で石段を上がっていき最後の一段を登った。

アオキの目に真っ先に入ってきたのは、またもや行列だった。

まだ続きがあるのかと一瞬思ったが、周りを見て驚いた。

茶屋があった。それはさっきの広場にあったものと同じ茶屋だった。

「ここは、、さっきの広場だ。」

ということはこの行列は今まで並んでいた行列の最後尾じゃないか。

「いったい絶景はどこにあったんだ。」

そう言ったところでさっきの池でもそんなことを言ったのを思い出す。

「そうか、ここでも同じことが起こっていたんだ。」

行列の先頭にあるのは行列の最後尾だったなんて、タチの悪いジョークのようで笑えてくる。

「はあーーーー。何だよ!」

アオキは神社の絶景をみようという気分ではなくなっていた。

それにしても、あの男。おそらくあの男も自分と同じような状況だったのだろう。

しかし、絶景があるなんていうのは意地が悪いな。

「あのー、すみません。」

帰ろうとするアオキに若い男が声をかけてきた。

「あの行列の先って何があるんんですか?」

「ああー。あれはね。」

そこまで言いかけて、アオキは少し考えた。そして。

「絶景があるそうですよ。」

そう答えると、若い男はアオキに感謝して行列へと向かった。

行列に並び始めた男の後ろ姿は、絶景までとは行かないが悪くないなと思った。

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