第9話 固有スキル【神-TuBE】
◇◇◇
そんなわけで昼食タイムである。
言いにくそうにモジモジするシロナの話を聞けば、どうやらここは『作物』だけ育たない土地らしく、魔獣と言った危険な生物が縄張りとしている土地らしい。
周りが緑豊かなのに【鑑定眼】が全く発動しないのはそういう理由があったのか。
そう言うのは変に突っ走る前に行って欲しかった。
でも――なにもしなくてもお腹は減る訳で、
「たったらー、奇蹟のチケット~☆」
某猫型ロボットの真似をしながら転生特典を掲げてみせる。
こんなところで使うのはもったいない? うるさい!! 子供にひもじい思いをさせてたまるか。
食事は身体の資本です。
ということで――
「美味いものをお腹いっぱい食べさせて!!」
と言ってチケットを千切ってみせれば、まばゆい光が溢れ返ったかと思うと白い煙がもうもうと立ち昇り――隣から今まで聞いたことのないような歓喜の悲鳴が聞こえてきた。
「うわああああああああっっ!! エレンさま、これ、これっ!!」
「うん。私もここまで豪華とは予想外なんだけど――すっごい量だね」
目の前に食べきれないんじゃないかと思うほど豪華な料理の数々が。
鑑定眼を通して料理の一つ一つを確認していけば、出るわ出るわ旨そうな料理名の数々が。
【ネキュタル】【黒龍のしっぽステーキ】【天空草のサラダ】【黄昏のアップルパイ】【ヒュドラの蒲焼】【エリュマントスの丸焼き】【テケリリの寒天ゼリー】【天原米】【クラーケンのタコ焼き】【妖精女王特製スープ】etc.
なかには【鑑定眼】でも鑑定しきれない謎料理なんかもあるけど関係ない。
出てきたご馳走に目を丸くしながら、今か今かと尻尾をぶんぶん振るシロナのなんと可愛い事か。
「あ、あのエレンさま。これ本当に拙も戴いてしまっていいんですか?」
「うんうん、まだいっぱいあるからたんと食べなさい」
「――ッ、はい!! ありがとうございます!!」
そんな訳でようやく食事タイム。
当然、私もご相伴にあずかる訳だが――なにこれめっちゃうまいんだけど!?
食べれば食べるほど力がみなぎっていくというか。
身体に必要なエネルギーがどんどん吸収されていくような感じだ。
「エ、エレンさま。これは――ッッ!!!?」
「たしかに、これはやばいね……。いくらでも食べられるというか。いままで食べたことのない味というか、高級レストランのディナーチケットかよ」
某美食アニメのようなコメントはできないけど、語彙が消し飛ぶほどおいしいのは間違いない。
今はとりあえず、この食事に没頭せねば。
そうして異世界転生初の食事は思いもよらぬ豪華さを極め、とりあえず詰め込めるだけお腹に詰め込むことしばらく。
「それでいきなりなんだけど、なんでシロナはあんなところで行き倒れてたのか聞いてもいいかな?」
トラウマを抉ることになるかと思い、できるだけタイミングを見計らって話題を振ってみたがどうだろうか。
たったいま死ぬような思いをしたことだし、もう少し後でもいいかなと思ったのだが――
「それが、あの、手紙をエレンさまに届けるようにと、夢の中で賜りまして――」
「うん? 私に?」
「はい。ええっと、ちょっと待っててください。確かここに……」
そう言ってリスみたいに頬に食べ物を詰め込んだ黒龍の尻尾ステーキを飲み込み、こくんと頷いてみせるシロナ。
そうしてゴソゴソと自分のぼろ服の胸元に手を突っ込むと
「これです。○×△さまからお預かりした神託になります。これを見せればすべて理解してもらえると言ってました」
「これが神託ねぇ――」
取り出してみせたのはやけに分厚い存在感を放つ一通の手紙だった。
上質な紙で作られているのか手触りが半端じゃないくらいい心地いい。
それでもって――
(めっちゃ見覚えのあるんですけど、これ)
これでもかと下品にならない程度にデコレーションされた『ファンレター』。
嫌がらせのように分厚い『愛』といい、このデザインといい、地下アイドルデビュー当初からイベントがあるたびに毎回かかさず私の事務所に送りつけられたものとほぼ一致している。
案の定、差出人を見ればそこには『エレたそ親衛隊 隊長』と書かれており――
「まさか異世界に来てようやくコイツの正体を知ることになろうとは――」
ややげんなりした気分で、ファンレターの封を丁寧に開ければ、毎度おなじみの『拝啓、爽やかな春の日差し。エレたそはいかがお過ごしでしょうか――』という長ったらしい挨拶が書いてあった。
住所不明。正体不明でネット界隈でも謎の人物として有名だった『エレたそ親衛隊 隊長』。
事務所に色んな贈り物をしたり、私と共演してくれたアイドルの子たちにわざわざ高級菓子折りを送るなど、その正体をはっきりと覚えている者は誰もいないと言われるほど謎の人物で、
とある風の噂では特定班が動くほどニッチな界隈で有名な伝説のヲタクだったそうだけどまさかあのヲタ神がそうだったとは。
「はぁ――、見るのも怖いけどいちアイドルとしてはファンからのお手紙は見ないわけにはいかないんだよねぇー」
ワクワクといった感じで様子を窺うシロナの目もあることだし、破り捨てるわけにもいかないだろう。
恐る恐る目を通せば、案の定ろくでもない文章が書かれていた。
都合便箋、三十枚以上。
端から端までびっしり書かれたファンレターの文字はムカつくほど達筆で緻密に書かれており、これを全部読み進めるとなると日が暮れてしまいそうなほどの量だ。
命がけでこのファンレターを届けてくれたシロナの為にも何とか読み切りたいが――
(これ全部読むとなると絶対夜になるよね、これ)
何とかならないかと頭を悩ませ試しに鑑定眼を使ってみたところ、無駄に詩人じみた情緒あふれる表現をズバッと添削し、無駄なくわかりやすく要約してくれるではないか。
鑑定眼さん、ほんっっとありがとうございます。
そうしてその小さな体のどこにそれだけの量の料理が入っていくのか。
一心不乱に最高級料理を完食していくシロナを尻目に、便箋二枚分に要約された手紙を読み進めていけば、そこにはこの世界についての情報が記されていた。
どうやらここは数多の神々が信仰を奪い合い発展してきた異世界――アヴァロンという世界らしい。
人口はそこそこ多く。技術発展も中世レベル。
大抵の世界的基準はよくあるようなラノベと同じのよう状況だが、どうやらこの世界に住む人々の多くは信仰している神様から【加護】をもらって生活しているらしい。
そう言えば私のステータスにも【名無し神の推し】なんてよくわからない加護があった気がするけど、この世界では【加護持ち】と呼ばれる人はそれほど珍しくないそうだ。
「ねぇシロナ。この手紙に加護はスキル習得に関係するって書いてあるんだけどどういうことかわかる?」
「スキルの習得、ですか? 拙もそこまで頭のいい方じゃないので詳しくはわからないんですけど、神様の加護がその人に相応しいスキルを与えることがあると聞いたことがありますけど……ごめんなさい。学のない拙ではそのくらいが精一杯で――」
「いや大丈夫。十分参考になったから」
要は加護を与えられる神によって習得する【スキル】や能力値の向上が違うということだろうか?
『説明書』を読み進めていけば、どうやら信仰力が高ければ高いほど信者に分け与えられる加護のチカラも変わってくるらしく。
この切実な文面からわかる通り、名前すら剥奪されたあのヲタ神にスキルの習得を期待してもおそらくあまり意味はないようだ。
「まぁそこんところはあんまり期待してないから別にいいんだけど、私が知りたい項目はこっちじゃなくて――っと」
ああ、あったあった。
そうこの【固有スキル】についてだ。
【固有スキル】っていうくらいだから特別なものなんだろうけど、使いこなせなければ宝の持ち腐れだ。
最近ようやくスマホの機能を巧みに扱えるくらいになった機械音痴の私でも扱えるようなものであってほしいのだが。
そこには一応ざっくりとした説明が書いており――
「支援型アイドル応援スキル?」
要約するとこの固有スキル【神-TuBE】にはそう言った能力があるらしい。
なんだその下手糞なネームングセンスは。
とりあえず説明書に促されるままに試しに固有スキル【神-TuBE】をクリックすると、ステータスボードは別に華やかな画面が現れた。
なにやら怪しげなロゴの後に【神-TuBE】という画面が現れる。
最初見たときは焦って何がなんやらよくわからなかったが、
どうやらこの『説明書』を読む限り、この五つの基本的機能をうまく使うことでその支援型アイドル応援スキルの真価を発揮できるようだ。
【物販ファクトリーシステム】
【動画編集】
【動画投稿・ライブ機能】
【投げ銭システム】
【衣装・換装システム】
アイドルオフィシャルサイトのような造りだが、このサイトのディーティルのこり具合からしてオタクとしての本気具合が窺える。
本当、こういうことに関しては徹底してるなーあのドル神。
詳しく説明書を読んでいけば、どうやら私の私生活は『配信』のような形で多くの神さまに【視聴】されているらしい。
ならこんなスキル意味ないんじゃと思うのだが、どうやらこの固有スキルを使うことで『報酬』が支払われることがあるようだ。
その意味することはつまり――
「投げ銭。配信者に支払われるせめてもの応援ってことか……」
ME-TuBEを思い浮かべればわかりやすいだろう。
そういえば言えば転生前。私が異世界でアイドル活動をするにあたって色々とサポートするとか言っていたような気がする。
ぶっちゃけていえば、もっと回復魔法とか実用的なスキルが欲しかったけど――
「でもこれ、実はかなり使えるスキルかも……」
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