キャンディは砕かれていた⑦

 二年二組との試合は前評判どおりの一方的な展開になった。


 センターバックに陣取った三ツ矢から上げられたトスを前衛の三人がフェイントや激しいアックでこちらに押し込んでくるせいで、こちらはブロックとパスにてんてこ舞いでとても得点を決めることができず。気づけば得点は二対二十三とストレートに近い得点差で一セット目を失おうとしていた。


 敵はバレー経験者の三人がネット前に張り付き、現役の二人が後方から絶妙な位置にパスを回している。残りの一人は最初から数に入っていないのか後方の端の方でボールが飛び交う様子を眺めている。一方でこちらは鈴木という経験者と素人AとBが前衛として張り付き、後衛を素人C、Dを両サイドに置いた現役バレー部の巻島が必死の形相でコートの端と端を走り回っている。


 素人Aとして僕は壁としてブロックを試みるが、敵は僕の両腕の間を上手に射抜いていく。


「鈴木くん、ブロックってこんなに難しいもの」

「難しいけど。あれは三ツ矢がいい場所にトスを上げるせいだ。気にすんな」


 スポーツマンらしく励ましてくれる鈴木だが、額には汗がへばりつき笑顔には力がない。おそらく彼自身ここまでの得点差になるなど考えていなかったに違いない。後ろでは唯一の現役バレー部員、巻島の激しい息遣いが聞こえるが彼にアタックを受けてもらわない限り僕らに活路はない。


 素人CとDの植草と城戸は巻島がなんとか返したボールを前にパスしてくれるがどうにも位置が悪く、敵にすぐにブロックされたり、山なりに敵コートに押し返すくらいしか出来ていない。


 敵のサーブを城戸がなんとかアンダーハンドで押し上げ、疲労困憊の巻島が鈴木に高いパスをあげる。だがパスはややネット側に飛びすぎており、アタックするには詰まりすぎていた。鈴木はフェイント気味にボールをちょんと優しく押し出すが、それは相手に読まれていたのか簡単に弾き上げられバックセンターの三ツ矢をとおして絶好のパスへと変わった。僕と鈴木の二枚の壁は相手の強烈なアタックに簡単に抜かれてカウントは第一セットのマッチポイントに進んだ。


 二年二組側のコートサイドではすでに楽勝ムードが漂っているのか、すでにギャラリーたちが次の試合について大声で盛り上がっている。実力による成果とは言え、あからさまにそのように言われるのは悔しいものだ。そんなことを考えていると鈴木が僕の肩を叩いて小さな声を出した。


「つぎ、高めのパスがあがったら俺はフェイントだけするから、三木がアタックしてくれ」

「分かった」


 僕が頷くと鈴木は「一発くらいはかましてやろうぜ」と自分のポジションへと戻った。自分たちが快勝しているという油断からかひどく遅いアンダーサーブを植草がレシーブでコート中央へ弾く。さらに巻島が疲れきった表情のままトスをあげる。ボールは僕と鈴木の間に大きな弧を描いた。鈴木はそれをかなり早いタイミングでアタックの構えで飛び上がる。


 敵の前衛がそれに釣られて大きく飛び上がるがまだボールは弧の頂点にも達していない。鈴木が何もない空に大きく腕を打ち下ろしたあと僕は残されたボールに食らいつくように飛び上がって撃ち落とした。前衛三人のタイミングがずれたおかげで僕の打ったアタックは見事に敵のコートに突き刺さった。


 得点は一点だけ進み三点になった。


 得点としては微々たるものだったが、僕と鈴木はにぃと口を開いてお互いの健闘をたたえた。


 その直後、思い出したかのように二年二組からの反撃で僕たちはあっさりと第一セットを落とした。第二セットの前に一分間の休憩が挟まれる。僕たちのほうはいよいよ敗戦を意識して暗い表情であったが、相手を見ると多くの選手が明るい顔をしている。そのなかで三ツ矢だけがひどく焦った表情で僕の方を見ていた。僕が彼の方に目線を送ると彼は慌てて視線を逸らして手にしていた携帯を覗き込んでからすぐにコートサイドの手荷物いれに戻した。

 

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