キャンディは砕かれていた⑥

 僕の所属する二年五組のバレーチームはズブの素人が四人。現役のバレー部が一人と経験者一人であり、お世辞にも強いとは言えない。なので一回戦の一年七組との試合でさえ苦戦を経ての辛勝であった。なので二回戦の相手が二年二組だと分かるとチームメイトたちの気力はほぼゼロになった。


 二年二組は現役のバレー部が二人に経験者が三人に僕のような数合わせが一人という勝ちに来ているチームなのである。相手チームは一回の勝利に気勢を上げている。得点ボードを見れば二セット連取の快勝である。そのチームの中心は三ツ矢隼人であった。


 身長が高く、話も上手く、さらにリーダーシップもある彼はまさに集団のトップにふさわしい雰囲気があり、二年のなかでもひどく人気がある。先月など彼に告白しようとした女子の間でひと悶着があったほどだ。先ほどの試合でもうちのクラスの一部の女子たちが三ツ矢に声援を送っていた。おそらく彼女たちは対戦相手が自分たちのクラスになっても彼を応援するに違いない。


「なんか、試合の前に負けてるよな」

「もう負けでいいよ」


 近くにいたチームメイトたちから後ろ向きな声が漏れ出すが、僕も全くの同意見である。そもそもの実力が違う相手に挑むことほど打ちのめされることはないのだ。


「棄権したそうな顔だね」

「その様子じゃサッカーはすぐに終わったみたいだね」


 僕が応じるとジャージに一つの汚れもない柳がニヤリと笑った。


「まぁ、うちのクラスはバレーがメインでサッカーは出がらしだからね。前半でハットトリックを二人に決められて後半にダメ押しの四点を入れられて無事にコールドゲームだよ」

「サッカーにコールドはないだろ?」

「球技大会は進行第一だからね。逆転不可能となれば試合終了さ」


 確かにグラウンドの兼ね合いで一試合ずつしかできないサッカーならば仕方ないのかもしれない。バレーも一試合四十分制で行われているので必ずしもゲームセットまで得点を積み重ねてはいない。進行第一というのは確かにそうらしい。


「ここは男子バレーの会場だけどいいのか?」

「まぁね、ここはここで見るもんがあるんだよ」


 柳は視線と顎を動かすとバレーコート中央脇の審判台をしめす。そこには短パンに半袖という少し寒そうな服装の女子が座っている。


「やっぱり女バレの足はいいよね。ほどほどに筋肉がついててむっちりハリが良さそうで」


 うっとりした声を出す柳に僕は冷ややかな視線を送る。だが柳はそんなこと構わないらしくじろじろと女性徒を足元から舐めまわすような視線を送っている。女生徒はそのことには気づいていないらしく審判としての仕事を果たした。


 完璧なコースで選手のいない場所にサーブが決まると審判が笛を吹いた。片方のチームは歓喜にガッツポーズをみせ、逆のチームはがっかりした様子でコートをあとにする。審判は次の審判であろう女生徒に笛と進行表みたいなものを手渡すと飛び降りるように審判台から降りた。


「次はうちと京平のところの試合みたいだね」

「みていくか?」

「まさか? 次の審判は僕の好みじゃない。なによりそろそろテニスのほうが盛り上がる時間なんだ」

「充実した球技大会で羨ましいよ」


 柳は自信げに微笑むと「二度と帰らない日々だからね。融通はできても妥協はできないんだ」と彼は言い残して体育館から出て行った。やっていることはそこそこゲスい割にはかっこよく見えるのは僕にできないことだからだろうか。などと考えているとクラスメイトの鈴田が「試合!」と叫んだ。


 僕は慌ててコートへと向かった。

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