第2話:その名は『デンドロビウム』
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青騎士の騒動がSNS上で話題となっていた西暦二〇二×年の七月――青騎士とは無関係のような、ある人物が注目されるようになった。
その人物こそが、後に我侭姫とも呼ばれる事となったデンドロビウムである。
『チートプレイヤーは、誰であろうと情け無用――!』
この一言と共に、彼女はチートプレイヤーを撃破していった。ARスーツは分かるとして、その装備は明らかにメーカーが販売しているそれとは若干異なる。
むしろ、デンドロビウムも同じような不正ツールを扱っている疑いさえSNS上で存在していた。それが、逆に注目を浴びるきっかけになったのだろう。
チートといっても堂々と威力の高い武器を使う様なケースもあれば、他のプレイヤーを妨害するようなトラップ系、ハッキング系等とピンからキリまであった。
彼女の場合はどのようなチートでも情け無用――まるで、何処かの時代劇辺りを思わせるような展開と言える。
まるで、チートをルール違反と認識して問答無用に違反者を取り締まるかのような勢いだろう。
過去に存在していた自粛警察などのようなSNS上で存在する〇〇警察と同じ事例――と言えなくもなかった。
「ここまでの人物が出てくるとは――ARゲームのガイドラインを緩和し過ぎたのが裏目に出たのかもしれません」
男性スタッフの一人がデンドロビウムの資料を社長室に持ち込み、説明を行っている。
社長室と言っても、周囲には資料となるような本棚が多く、ここを資料室と言っても問題はないのかもしれないが――。
「保護主義的なガイドラインが――芸能事務所側の賢者の石と呼ばれる商法を別のコンテンツで行い、それこそコンテンツ市場その物がアウトロー化した」
社長席ではないが、部屋の中央に置かれたテーブル、そこにはパイプ椅子に座る男性の姿があった。
スタッフは立った状態で説明している一方で、この男性はパイプ椅子に座っている。パイプ椅子なのは予算の問題と言う訳ではないらしい。
この男性は真剣にスタッフの話を聞いている様子だった。それに加え、パイプ椅子を嫌がるようなしぐさも一切見せない。
「それは分かっています。芸能事務所のゴリ押しで潰されたコンテンツも数多くあり、それに対して救済を行ったのが――」
「その通りだ。芸能事務所は政治家の協力を得て、あそこまでのゴリ押し商法を展開できた。しかも、税制優遇なども受けていたという話だ」
「そこまでやっても、結局はこういった自称ガーディアンのような勢力を生み出し、ネット炎上を助長する――」
「ネット炎上は防止対策を行っても、ルールを定めたとしても起きる物。ARゲームでもガイドライン違反をしたプレイヤーは報告されているのは知っているな?」
この二人の所属する会社、それは高層ビルにある訳ではない。草加市内の店舗の二階に店舗兼事務所があるような状態である。
こうした店舗兼事務所というゲーム会社は草加市内にいくつか存在し、それらが集まった大規模エリアもあるという話だ。
その会社の名前は
「しかし、現状のコンテンツ流通は決して海外に対抗できるレベルとは――」
男性スタッフの声を聞き、椅子に座っていた人物は唐突に立ちあがった。
その人物は社長なのだが――顔はARバイザーで隠しており、素顔は不明と言う人物なのである。
このような怪しい人物を信用できるのか、という問題もあるかもしれない。
創作作品の中には、素顔を隠した社長が実はダミーの人物だった――という事例もある。スタッフも、それは疑うだろう。
しかし、
「日本のコンテンツが全て海外に通じないと言う訳ではない。こちらとしては、対抗できるコンテンツを増やす必要性がある――と言う事だ」
山口は断言する。日本のコンテンツは失敗例ばかりが注目されがちだが――成功例も一部で存在していた。
だからこそ、コンテンツ流通で立て直しを図る必要性があったのである。
その場所としても都合がよかったのは、アニメ・ゲームコンテンツを町おこしにしている割合が多い埼玉県だった。
春日部市、秩父市、鷲宮――成功例は探せばいくらでもあるだろう。だからこそ、山口は埼玉県でコンテンツ流通を――と考えていたのである。
実際、その土台となる場所が狙い澄ましたかのように存在していた。
それが、草加市の計画していたARゲーム都市計画。一部では『オケアノス』とも呼称されている、あの計画だった。
「我々は――芸能事務所のゴリ押しコンテンツ流通を認める訳にはいかない! だからこそ――」
山口は力強く宣言する。一部の特定芸能事務所のようなゴリ押しは――海外で通じるような手段ではない。
それこそ、チートと言われてもそん色ないだろう。ゴリ押し商法が過去に賢者の石と例えられたように。
デンドロビウムの動画が山口の目に留まる前、七月上旬に注目を浴びる事になった。
六月下旬と思わしき時期に投稿され、SNSの各所で拡散していた様子である。
その動画の主役は――デンドロビウムだった。なりすましやコスプレイヤーではなく、本物というべきか。
彼女の名前が知名度を上げる結果になったのだが、この動画と言う事らしい。
「お前達が私に挑んだ事こそが――」
彼女が左腕に転送した武器、それはビームの刃で構成された剣と言っても過言ではない形状の武器である。
ARゲームで使用する武器をARウェポンと呼び、それを呼び出す為の端末をARガジェットと呼んだ。
「その武器を持っている段階で――お前達は致命的な失敗をしているのだ!」
彼女の剣は瞬時にして鞭のようにしなり、高性能とも言える追尾能力でターゲットを確実に仕留める。
それを一振りするだけで相手を一撃で沈黙、倒された相手は自動的に転送されるのだが――その様子はゲームセンターで稼働しているアクションシューティングを連想させた。
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