1-2


 日本が令和を迎えた西暦二〇二〇年、埼玉県以外でもARゲームが市町村の聖地巡礼や地方活性化という形で行われている中――ある事件は起こった。

事件と言えるかどうか不明なそれは、ネット上でも都市伝説の類として拡散されていく。拡散した元凶は、たいていがまとめサイトと呼ばれる存在だろう。

 ネット上では【青騎士】と呼称されて拡散されていたその人物の正体は――未だに誰も知らない。

次第にARゲームで様々な事件がピックアップされていき、再び【青騎士】の名を聞く事になった時には――今回の事件は解決していたのである。

ネット上でも【青騎士】の話題がトレンドになっていた中での事件だった為、詳細をリアルタイムで目撃する事はなったと言う。

この事件が表面化したのは――十日ほどかかったという話があるのだが、真相は定かではない。



「なるほど――これは表面化すれば、事件になるか」

 草加市近くのコンビニ入口、その近くに置かれていた最新型のLEDを使用しているセンターモニターがあった。

大きさは三〇インチのテレビ位であり、コンビニとしてもそこまでお荷物になるような物ではないだろう。

このモニター自体は最新鋭のスマートフォンよりも草加市内では役に立つ情報ツールとされ、群がる一般人も多い傾向と言える。

しかし、この時に端末の前に立っていたのは――。

「何だあいつ?」

「新手のテロリストか?」

「だが、ここのコンビニは俺たちの縄張りだ! すぐに出て行け!」

 いかにもヤンキーを思わせるような不良男性グループが、この人物に因縁をつけようとしていた。

元々、このコンビニ周辺にたむろしているグループらしいのだが、この人物にはお構いなしのようにスルーをしている。

「この姿が見えないと言うのか――それこそ、身の程をわきまえるべきだ」

 不良グループには、この人物が黒いインナースーツとライダーメットを思わせるメットを被ったバイクのライダーと言う認識だった。

その為、襲撃をして黙らせれば自分達が優位に立てると考えたのだろう。実際、不良グループの中にはアナログな武器を持った人間もいた。

しかし、一部のギャラリーにとっては不良グループの行動を一種の『負けフラグ』と断言している。

「姿ァ? そのライダースーツと武器を持たないような素手の人間に何が出来ると――」

 何かを言いかけた不良の一人が、強力な一撃を受けたかのような表情で倒れる。しかも、この人物は今の一撃で気絶しているのだ。

それを見た周囲の不良も震えるのだが――それでも逃げれば、なめられると思ってこの人物に向かって手持ちの武器をふるう。

だが、この人物に手持ちの武器は何の役にも立たない。既にコンビニの周囲がCGのような空間になっている段階で――。

「この姿が見えないのであれば、言ってやろうか?」

 容赦なくパンチを加え、次々と不良を吹き飛ばしていくのだが――どう考えても拳は全く届いていない。

気功の類なのか、それとも魔法なのか――倒れていない不良も恐怖で逃げ出し、武器を投げ捨てる者も出ていた。

しかし、それでも逃げ場など存在しない。周囲のフィールドから脱出するには、目の前の人物に勝つしかないのである。

「まさか――これか? これが原因なのか?」

 不良の一人が、タブレットのような端末を起動した事、それがフィールドの発生した原因だった。

今更気づいたとしても、彼らにとってはご愁傷様としか言いようがない。むしろ、触らぬ神にたたりなし――だろうか?

彼らが、どのような手段でARガジェットを手に入れたのかはどうでもいいが――起動しているガジェット、それが不正な端末であるのは疑いの余地もないだろう。



 実際、彼らの武器は本物と言う訳ではなく――限りなく本物に見えるようなARウェポン(CG製の武器)だったからだ。

それを本物の武器と勘違いし、不良達が無双をしていたというわけである。周囲の人たちにとって、不良が怪行動を取っていると判断されてもおかしくはないが。

「そのガジェットは不正な端末――チートと呼ばれる物。それは――」

 次の瞬間、不良グループのガジェットは機能を停止し――フィールドも解除された。

一体、不良グループがどうやってARゲームのガジェットを手に入れたのか? しかし、そんな事はどうでもよくなっている。

「人類にとって、過ぎたるもの。誰かが独占して使用するべきではない」

 この人物の名前はネット上で【ウォースパイト】と呼ばれていた。

何故、この名称なのかは不明だが――通りが良いという事で拡散している可能性は否定できない。

「チートプレイヤーが無双し、不正な利益を得ようとするような現実は――あってはならないのだ」

 ウォースパイトは周囲を見回して何かの存在が確認出来ないのを踏まえた上で、再びセンターモニターの映像に集中するのだが――。

既に自分が見ていた試合は終了していた。他のプレイヤーは見ていたようだが、ウォースパイトだけが不良グループのゲーム空間に入ってしまったようである。

どちらにしても、今のウォースパイトには関係はないのだが。



 ウォースパイトの外見、それは不良グループにはライダースーツを着たライダーと言う認識だったが、周囲のギャラリーにとっては違う姿で見えていた。

丁度、その時のバトルがコンビニとは別の場所――草加駅に設置されたモニターで放送されようとしていた。

『アーケードリバースを見るときはアニメ的演出等の都合上、部屋を明るくして、画面から離れてからご覧ください』

『アーケードリバースはルールを守って、正しくプレイしましょう。違法プレイなどの不正行為はランカーにあこがれる子供達も見ています』

 放送前、このテロップが表示されている。このテロップの意味は特に深い物はないのだろう。

しかし、ARゲームの一部ジャンルにとっては死活問題と言えるものかもしれない。それ程、チートプレイヤーが与えている影響は予想をはるかに超えているのだから。

これを一種のメタフィクションと判断しているのかは、今から始まる映像を見たものだけが――。

「1人に対し、20人とは――多数に無勢だな」

「これでゲームが成立するのか?」

「似たようなマッチングなら、数日前からあったな」

「コンビニに屯している不漁が――という住民の苦情もあったが」

「まさか、不良グループがARゲームを?」

 周囲のギャラリーは今回のバトルに覚えがあるような雰囲気である。

実際、ARゲームを扱っているニュースサイトでも不良グループの話は伝わっていた。

彼らがどのようなガジェットを使い、他の不良グループを潰していたのか――容易に予想は出来ている。

「チートガジェットか――ネット上で悪目立ちをしたいような連中の考えてる事だな」

 ギャラリーの一人は、不良グループの使用しているのがチートであると分かっていた。

それもそのはず。彼女は既に別のチートプレイヤーを倒したばかりなのだから。

「こうした連中がチートを使い続ける限り、ARゲームはゲームとは呼ばれなくなる。それこそ無法地帯だ」

 身長168センチ、体格はスマートだが――腕の筋肉は見せかけと言う訳ではないように見える。

それに加え、幼女を思わせるような顔に銀髪なのだが――彼女をゴスロリ等で例えるようなギャラリーは、この場にいない。

「不正行為に手を染めるような人間は――悪目立ちをして構って欲しいという考えばかりだ。そんな人物にはつぶやきサイト等のSNSを持たせるべきではない」

 彼女の極論に対し、一部のギャラリーは言いすぎだと猛反発する。それに加えて、発言を取り消すように言う人物も何人か――。

しかし、それでも彼女が発言を撤回する気がないのはある男性をにらみつける目を見ても明らかだ。

その眼光は神話に出てくるメデューサが石化のにらみをするような――言動を曲げる気がないという物である。

「今は黙っていろ。バトルを普通に視聴しているギャラリーにも迷惑だ」

 発言を取り消すように怒鳴りつけた男性に対し、彼女は黙るように注意する。

さすがに殴るような行動には出なかったが、下手をすると実行しかねないような雰囲気だったので男性の方も引く事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る