冷たい腹の底に
わたしの冷たい腹の底には百足が眠っている。彼は大体いつも寝ていて、わたしが安息に逃げるときに大抵いつも起きだす。そしてわたしの腹の底を這い回り、ぞわぞわり、かさかさりとした実体のない涙を混ぜる。
わたしは冷えた夜の底で、助けを求める。いっしょうけんめいに手を伸ばして、誰も手を差し伸べていない虚空に縋り付く。誰かが一緒に堕ちてくれるのだ。
わたしは冷めた珈琲の底で、恐怖に震える。上を見上げてはその透明な暗さを、下を見下ろしてはそのつるりとした寄る方のない白さを。寒さに震えて膝を抱えて、視野を狭くして耳を塞いで、舌を抜く。
わたしは冷ました爪を剥いで、首を掻きむしる。針の筵になった青い冬に寝ていた。欠伸は赤い春に至って消えた。たぶん一万円では生きられないのだ。
わたしは冷やした耳をたくさん揃えて並べた。ひとつひとつの形や色はよく見るとバラバラで何一つ揃っていない。それに百足は腹を立てて、いつも以上に激しく涙を掻き混ぜる。冷たい腹の底で波が高く打ち寄せる。
窓越しの世界 青蒔 @akemikotaro
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