私を殺してよ、母さん。

母さんの言う言葉を聞きたくない。

母さんは悪くない。

悪いのは全面的に私。

私が勝手に母さんの言葉の裏をのぞいて、重たくして咀嚼して飲み込んでる。それだけ。

母さんは私に本当に優しい。

私を頭ごなしに叱り付けることもしない。

家事だって完璧にこなす。

母さんのご飯は美味しいし、部屋もいつもぴかぴかだ。

いつも私を優先してくれる。

夕食の時間は私の勉強の進捗に合わせてくれる。

ピアノの発表会が近ければ練習を最優先に、つまずけば励ましてくれる。

傷付けば慰めてくれる。

いいことがあれば一緒に喜んでくれる。

発表会で粗相をしても、父さんみたいには怒らない。優しい笑顔で私を見るだけ。

その笑顔の裏を確信してしまう。

疑ってしまう。私にかける甘言の真意を。

その言葉を、笑顔を飲み込んで、私の腹の底はドロドロでグチャグチャ。

母さんは悪くない。悪いのはいつだって私。

勝手に母さんを加害者に仕立て上げてる。

母さんは完璧。

それがどんなに嫌だったか。

母さんがダメな親であれば。

母さんが虐待をしてくれれば。

母さんが犯罪者であれば。

ifを積み重ねて母さんがひどい人間であることを何度も祈った私は最悪の人間だ。

だって、母さんがひどい人間であれば、私は常に被害者でいられた。

私がなにをしても、その原因は母さんにあることにできた。

でも、私の母さんは完璧。

私がどうあがいても変わらない。

私は加害者だった。常に。

母さんは出来の悪い子供の被害者。

せめて、母さんの望む子供の型にはまっていられたら、どんなに楽だろうか。

一度自分をドロドロに溶かして、型に入れて、冷めれば完璧な子供の出来上がり。

インスタントの完璧な親子だ。

そんなの、ありえない。

母さん。はやく私を壊して。

母さん。はやく私を罰して。

私を殺してよ、母さん。

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