潜入

アンゴラス帝国


アンゴラス帝国の龍に夜間戦闘は不可能である。竜騎士の視界が効かないこともあるが、第一に竜は昼行性なのだ。魔法で竜を服従させることは出来ても、そもそもの竜の体質を変化させることは難しい。よって自衛隊機は悠々と帝国空域へ侵入する。それを阻むものは何も無い。


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アンゴラス帝国 第八臨時竜基地より7kmの空域


各航空基地を同時攻撃できるように、綿密なスケジュールを組まれて発進した14機のオスプレイ、16機のf-15、そしてE-767早期警戒管制機はそれぞれの目的地へと向かっていた。このオスプレイもその一つだ。操縦士、副操縦士の他に客が10人乗っている。第一空挺団、第三分隊だ。今回は飛行機からパラシュートで飛び降りるわけではないのだが、後方浸透戦のノウハウがある第一空挺団に白羽の矢が立った。


ユーラシア大陸以上の面積を誇るアンゴラス帝国本国の国土は開発があまり進んでおらず、ここから灯りは一つも見えない。


「目的地上空に到着しました。着陸に入ります。」機長がアナウンスする。


「分かりました。ここまで、ありがとうございました。」分隊長が言う。


「礼は基地に帰投してからでいいですよ。」


「では、そうさせて頂きます。」機体はゆっくりと降下していき、僅かな振動が着陸を知らせる。駆動音により察知されことを防ぐため、着陸場所は基地より7km離れた場所だ。


「持ち物確認!」


「背嚢よし、小銃よし、、通信機よし、暗視スコープよし、赤外線誘導装置よし!」


「時計合わせ、3,2,1,0。これより、状況を開始する。」


扉が開かれると隊員達は異界の地へと歩を踏み出す。異界の地であろうと、地球であろうとやることは同じであり 10人の精鋭は、あっという間に夜闇に紛れ見えなくなった。


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帝国の竜騎士隊基地は主に司令部、竜騎士の兵舎、竜の厩舎、一般兵の兵舎から成る。エリートである竜騎士の待遇は良く、一人一つ個室が与えられる。竜もストレスが貯まらないように、一頭一頭区切られている。それに引き換え、一般兵は一部屋に12人詰め込まれる。寝床は三段ベッドであり、少しでも頭を浮かそうものなら、木板に頭をぶつけ、上の段の同僚に文句を言われてしまう。


「くそっ、俺が何でこんな蜥蜴とかげの世話なんてしなぎゃなんねぇんだよ!」


国立劇場で見た英雄のように、彼は蛮族を蹴散らす予定だった。しかし、彼に与えられた任務は竜の餌やりと排泄物の処理のみ。戦闘用魔法杖こそ与えられたが、訓練すらろくに出来ていない。


「まぁ、そう言うなよ。死ぬ心配はないんだし。」同僚がたしなめる。


「俺は活躍がしたいんだ。」


同僚はあからさまにため息を吐く。


「何だよ、そのため息!」


「なんでも」


「ギャオーーーー!!」二人が言い争いを始めると突然、竜が吠える。どうやら、起こしてしまったようだ。


「静かにしろ!」兵士が怒鳴る。


「ギャオーーーーー!!」しかし、いつもは言うことを聞くはずの竜は鳴き続ける。


「静かにしろと言ってるだろ!」兵士は掃除用のモップで、竜の頭を叩く。


「おい、それはまずいんじゃねぇか?」


「どうせ、こいつらは首輪で人間に逆らえねぇようになったるし、言葉も話せねぇ。心配ねぇよ。」


しかし、兵士達は知らなかった。竜の視力は人間より遥かによく、夜目も効くこと、そして竜の視線の先に蠢く影があることを。


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森にはキノコのような形の木が並び、地面はピンク色をした苔のような物で覆われている。しかし暗視スコープごしには、その色は分からないだろう。分隊は見慣れぬ森を歩み続ける。



「グアッ!」突如、最後尾を歩いていた隊員が声を挙げる。


「どうした!」


「木の上から、何かが落ちてきて…」


「ギュルギュルギュルギュル」


隊員が異質な音のする方向に顔を向けると、3つの目を持った紫色の蛇のような生き物がそこにいた。血に濡れたばかりの牙から血が滴り落ちる、


「撃つな!もう、敵基地はすぐそこのはずだ。ナイフを使え。」分隊長が言う。


「了解」隊員の一人は謎の生き物を警戒しながら、ゆっくりと近づく。噛みつこうと向かってくる蛇?の一撃は、難なくかわされ、代わりにナイフが突きつけられる。


「ギュルン!」蛇の周りに、同じく紫色の血だまりができる。


「ふう」隊に安堵の空気が広がる。


「気を抜くな。何度も言うが、敵基地はすぐそこだ!」分隊長が喝を入れると、一瞬にして空気が緊張感を纏う。


「斎藤、山中!黒田を手当てをしてやれ。そして、そのままオスプレイに戻れ!」


「いえ、自分はまだ…。」反論しようとする隊員を分隊長は黙らせる。


「この作戦の要は、同時攻撃することにある。怪我人を担いで遅延させるわけにはいかん。」


「分かりました。」黒田と呼ばれた隊員は、申し訳なさそうに頷く。


「帰りでも、あの蛇に襲われるかもしれん。油断するなよ。」


「了解!」斎藤は背嚢から医療箱を取り出し手当てを、山中はその周囲を警戒する。


そして分隊はまた進み出す。灯りが見えたのは、謎の生き物をとの遭遇より10分が経った頃であった。


「目標施設を発見しました。」先頭を歩いていた隊員が報告する。


「管制機に報告しろ。誘導装置も出しておけ。」分隊長が言う。


隊員は背嚢から四角い箱を取り出すと、アンテナを伸ばす。


「こちらα-3、作戦地点へ到着。目標施設を目視しました。」


「了解。貴隊が最後の部隊です。10分後に各航空基地にミサイルが発射されます。マーキングを開始し、着弾まで待機されたし。」


「了解。」


通信が終わると、森に響くのは得体の知れない生き物達の鳴き声だけになった。

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