天空へ
アンゴラス帝国 デザイル軍港 対空魔導砲陣地
「敵襲!敵襲!」軍港に4度目のサイレンが響く。
「くそっ!話が違うぞ!」一人の若い兵は、持ち場へ走りながら悪態を吐く。帝国兵の仕事は300年前より、ずっと蛮族を蹂躙することだった。そして当然、今後もそうだと思われていた。しかし、これは何だ。何の冗談を見せられているのだ。
「当たれ、当たれ、当たれ!」魔導回路により生体の魔導エネルギーが増幅され熱エネルギーに変換される。そして光線となって魔導砲より発射される。帝国の誇る最先端の技術力と帝国人の魔法素養の高さが合わさって初めて成せる技だ。しかし、その光線は何もない空を進むばかりで、光る矢には当たってくれない。そして、いつものように矢が空中分解を起こす。その直後、湾が爆炎に包まれる。数十では済まない戦列艦が見る見る内にに傾き沈んでいく。そしてまたいつものように、光る矢が飛んで来た方向に銀竜が向かっていくが、成果はいつもと同じだろう。
「ボサッとするな!救命ボートを出す、手伝え!」
「はい!」桟橋は減ったとはいえ、数珠繋ぎになった戦列艦で一杯なので、ボートは手で引っ張って来なければならない。やっとの思いで船を海に下ろし、櫂を握る。二人の兵士は一隻の炎上している戦列艦に近づく。遠くからでもその熱と喧騒が伝わってくる。
「重傷者は放っておけ!」
「でもっ!」
「ちんたらしてると、お前も死ぬぞ!」
「あちぃー!誰か消してくれ!」
「こっち来んな!燃え移るだろが!」
「助けが来たぞ!飛び乗れ!」
戦列艦からロープを伝って乗組員が降りる。余りの熱さに耐えかねてか、戦列艦から飛び降りる者もいる。二人の兵士は海に落ちた兵士をボートへ引き上げる。その体は寒さにより震えている。
「この気温だ。早く助けてやらんと凍え死ぬぞ!」二人は無数に浮かぶ兵士に達を引っ掴み、船へと乗せる。その他の兵士も同じように救助に当たっている。しかし冷たい海に体力を奪われ、一人、また一人と冷たい海へ沈んでいった。
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アンゴラス帝国 帝城
連日開かれる会議は、結論など出る気配は無く永遠と議論が繰り返されていた。
「この犠牲を見ても考えは変わらない?空襲を止めるために、今すぐルザールを攻略すべきよ。」魔導相アイルが言う。
「だから、第一艦隊、第三残存艦隊は現在、外洋に出ることは叶わないとさっきから言っているじゃないですか。」軍務相デクスターは何回目かの問答に辟易としながら答える。
「駐留軍の艦隊と第二艦隊を差し向ければいいだけでしょう?」
「駐留軍艦隊の半数は既に抽出済みです。それに加えて植民地、衛星国では反乱の気運が高まっています。これ以上の抽出は不可能です。」
「本土と植民地、どっちが大事なのよ!」アイルは声を荒らげるが諦めたようにトーンダウンさせる。
「まぁ、いいわ。第二艦隊はどうなの?」
「第二艦隊は数十万人という規模です。防衛線の構築、及びそれに張り付く陸上戦力に物資を最優先で回さなければならない今、これだけの規模の艦隊を動かす余裕はありません。竜母の竜も防衛線のために抽出済みです。」デクスターが説明する。
「それに第二艦隊が無くなったら、反攻のための戦力がなくなってしまいます。魔導大戦を踏襲して、陸上における防衛線で敵を疲弊させて、敵の勢いが衰えたところで反攻を掛けるべきかと。」内務相、リジーが言う。
「何度も言うけど魔導大国同士ならともかく、蛮族相手にこんな戦い方…」
「だったら、蛮族の兵器より優れた物を作ってくださいよ。それができないなら、黙ってください。」デクスターが言う。
「あんたねぇ、私達が無能だって言いたいの?」アイルが怒気を含む声を上げる。
「会議が脱線しすぎているぞ。とにかく防衛線に危機が迫らない限りにおいて、艦隊はそのままということでいいな。」
「はい!」
「左様で!」リジーとデクスターが返事をする。
皇帝の言葉とあっては流石のアイルも逆らえず、首を縦に振るしかなかった。
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デザイル軍港 司令部
「随分と寂しくなってしまったものだ。」14回に渡る敵の襲撃により、戦列艦はその数を当初の十分の一までに減らしていた。船でひしめき合っていた港には、今やその影はまばらだ。
「まさか、対空魔導砲がここまで当たらないとは。」士官が嘆く。
「このままではただの的だ。幸い敵は、船ばかりを狙っている。戦列艦から魔導砲と人を降ろすか。」司令は思いつきを口にする。
「しかし、魔導砲陣地はもう一杯です。これ以上の置いたとしても射角が通じませんよ。」
「いや、あるじゃないか。素晴らしい一等地が。」司令は誇らし気に、窓から見える街を指差すのだった。
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日本 東京 首相官邸
薄暗い部屋の中、唯一の光源であるスクリーンには大量の木片が映し出されていた。
「敵が減ってきたことなより、クラスター爆弾による攻撃効率が下がってきております。これ以上行っても期待されるような効果は得られないでしょう。」銀縁眼鏡の防衛省幹部が言う。
「そうか、では。」
「はい、作戦の第二段階。敵航空戦力の排除に移りたいと思います。」
「敵の航空戦力はどのくらい存在しているのだ?」財務相が心配そうに聞く。
「敵の竜と称される兵器は垂直離陸が可能のようです。滑走路が不要ですので、敵基地の位置、航空戦力の数共に不明です。」
「ならどうやって敵を叩くんだ?」総理が聞く。
「敵地上空に戦闘機を飛ばして、向こうから出て来てもらうしかないかと。」
「しかし、敵が戦力の温存を選択した場合どうなる?」
「その場合航空機を敵首都上空へ向かわせ、敵を炙り出します。流石に首都に危機が迫るとなると、温存を考えることもないでしょう。」
会議は幕僚本部の作成した作戦を追認するだけに留まり、予定より幾ばくか早い時間に終了した。
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