空からの贈り物

アンゴラス帝国 デザイル軍港より200kmの海上


空を、竜ですら届かない高い空を10騎の怪物が飛んでいた。それはどの魔導生物にも似つかない、異様な姿であった。


「こちらハウンド01、間もなく作戦空域に到着する。」


「了解。現在、敵基地周辺を敵航空戦力20が軍港周辺を飛行中。留意されたし。」


「情報提供感謝する。だが、問題ない。今回は爆装のみでの出撃のため、ミサイル発射後はすぐに作戦領域より離脱する。」


「健闘を祈る。」


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デザイル軍港司令部


帝国の誇る最大の軍港、デザイルの司令部だけあって司令部は駐留軍のそれとは比べ物にならない規模である。本国の司令部だけあって、司令含む高級幹部は貴族出身者が多いので、大きさだけでなく、建物の細部の装飾にもこだわり抜かれている。日本人が見たならば、それが軍事施設だと気付くことはまず不可能だろう。


そんな司令部の中において一番豪華な部屋から、司令は隙間なく並ぶ自軍を見つめる。


「司令、紅茶をお入れしました。」士官がいい香りのするティーカップを執務机に置く。


「ああ、ありがとう。」司令は素っ気なく答える。最近ずっとこんな調子だ。


「どうかなさいましたか。」士官はいつも上の空の司令が心配になる。


「いや、なんでもない。」そう言いつつ司令は再び窓の外に目を移す。圧倒的な数である。数の力は偉大ではある。しかし誇り高き帝国が、もはや数を頼りにしか戦いができないことに虚しさを感じる。このところ、ずっと憂鬱だ。気分転換にと紅茶に手を伸ばそうとしたとき、扉が乱暴に開け放たれる。


「司令!哨戒中の銀竜より緊急連絡です!数十の光る矢がこちらに接近中とのことです!」


「なんだと」戦列艦は全艦緊急出港!対空魔導砲陣地に連絡を入れろ!」司令が魔信をとり叫ぶ。それに合わせて、基地にサイレンが鳴り響く。司令は慌てて作戦司令室へと駆け込む。


「矢が対空魔導砲、射程距離に入ります!」


「敵の光る矢は少ない。全弾撃ち落とせ。」その号令とともに数多に浮かぶ戦列艦から、そして陣地から光の線が空へ向かって放たれる。その数は雨が空に向かって降り注ぐかのようだった。しかし矢があまりにも早く、手動で照準をつける魔導砲は追いつかない。


「命中弾0!矢が侵入してきます!」


「そんな馬鹿な!あれほどの対空砲火をくぐり抜けて来たというのか!」


「矢が空中分裂しました!」


司令は敵を撃ち落とせたのかと一瞬安堵する、しかしそのの表情が塗り替えられるのに数秒と要さなかった。


湾一面が連続的な爆発と煙に覆われる。


「何だ!何が起こっている!」司令は狼狽する。


「煙で分かりませんがおそらく…」被害状況は絶望的なのは。誰の目にも明らかだ。」


「矢が来た方向に、銀竜部隊を出撃させろ。」敵の速度とその力は報告に聞いている。銀竜を向かわせてもよくて逃げられる、悪ければ返り討ちだろう。しかし、司令は一縷の望みを銀竜にかけるのだった。


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アンゴラス帝国 帝都 帝城


「デザイルより急報がありました。」軍務相、デクスターが並ぶ面々に説明する。今月に入って何度目か分からない御前会議の空気は、回を重ねるごとに重くなっていく。


「とうとう始まったか。」皇帝バイルが厳かに言う。


「はい。」


「状況はどうなっている?」


「戦列艦103隻、竜母2隻が沈没。戦列艦127、竜母3が航行不能となっています。基地への被害はありません。」


「それで、これだけの被害と引き換えに、どのような戦果をあげられたのでしょう?」魔導相アイルがデクスターに聞く。その口振りは既に結果を知っているかのようだった。


「敵はこちらの射程距離外から攻撃してきたため、敵に被害を与えることはできていません。」


「ほら、私が言ったようにこちらから打って出る方が良かったじゃない。今からでもそうすべきよ。」アイルはどこか楽しそうに言う。


「湾口部に停泊していた船ばかりがやられてしまったので、それをなんとかしないと出港出来ない状況です。現在、瓦礫の除去作業中です。」


「それに何日かかるのよ!敵がおとなしくそれを待ってくれるとでも思っているの!」アイルの詰問にデクスターは助けを求めるかのように、内務相のリジーを見るが視線を逸らされる。


「とにかく、何としても敵の上陸を許すな!」バイルは争う大臣達を睨みながら、重々しく言うのだった。


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日本国 首相官邸


「本日12:00、予定通り敵艦隊への攻撃が実施されました。敵艦およそ100隻を沈没、130隻に被害を与えることに成功。沈没させた敵艦で湾口を塞ぐことも成功しています。。補給と整備が完了次第、第二波攻撃を行う予定です。」防衛省の幹部が説明をする。


「順調そうだな。」総理はホッと胸を撫で下ろす


「問題は敵基地の制圧です。この世界ではGPSの配備が出来ておりませんので、ミサイルによる敵基地攻撃は現実的ではありません。」


「具体的に言うと?」


「ミサイル攻撃を行うためにはレーザー誘導装置を携えた隊員を潜入させる必要があります。」


「潜入は、難しそうだな。肌の色の違いもある。代替手段はあるのか?」総理は続きを促す。


「航空自衛隊により敵海上、航空戦力を排除した後、護衛艦による射撃と戦闘ヘリによって、敵主要施設を破壊。その後、陸上自衛隊による掃討を予定しております。」


「今回はこれまでとは違う。敵の本拠地だ。民間人も今まで通り、我々に好意的だとは限らない。中には自衛隊に攻撃を仕掛ける者も…」


「大臣、我々が戦っている相手はアンゴラス帝国を名乗るテロ集団だ。国ではない。そしてテロリストに民間人も職業軍人もない。」

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