基地建設
ルザール王国
とある森の中、三本角の鹿のような生き物が水が池の近くに佇んでいる。池には波紋一つなく、鏡のように清み渡っている。そして鹿が水面に顔を浸けた瞬間、風を切る音が鳴る。鹿は跳び跳ねながら森の奥へと消えていった。
「くそっ!また外れた!」少年は自作の弓を地面に叩きつける。
「ったく、ユーラレナの角は高く売れるっていうのに。もう野草は食べたくないな。」少年は明日からの献立を思い浮かべる。
水
野草のスープ
野草のサラダ
野草の香草(野草)焼き 野草を添えて
「はぁ。」少年は大きくため息を吐く。
なぜかこのところ帝国の食糧徴発が立て続けになされ、殆どの食糧が村から奪われてしまった。しかしその直後、武器保持禁止令が突然解かれ、堂々と狩猟を行えるようになった。まぁ、実際はかなりの人数が弓を隠し持ち密猟を行っていたらしいが。
そんなこんなで、少年は山で慣れない弓矢を撃つ羽目になっている。
「あーあ、一匹くらい仕留めないと今日も野草にされる。」少年の脳裏に頑固な父親が浮かぶ。
仕方がないから次の獲物を探そうと立ち上がった瞬間、鳥が一斉に羽ばたき、動物が咆哮を上げる。
「おわっ!」少年はバランスを崩し、再び座り込む。理由はすぐに分かった。森の向こうから、土埃が近づいて来るのだ。
「なんだあれ!」少年は急いで立ち去ろうとするが、足がすくんで動けない。砂埃が近づいて来るにつれて地響きが大きくなり、それが少年の恐怖心をますます煽る。
そしてとうとう彼らが姿を表した。巨大な手を持つ物、鉄の盾を前方に構えた物、長い首を持った物など様々だ。しかし一つ共通しているのは、それらが巨大で圧倒的な力を持っているだろうということだ。少年は弓を違え、その一団に向ける。そしてゆっくりと指を放す。
弓は途中まで真っ直ぐと飛んだが、矢の性能が悪いのか、腕のせいなのか途中で向きを変えて見当違いの方に飛んでいってしまった。
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ルザール王国 エビルス地方
自衛隊と案内役の貴族の一団は深い森を抜け、開けた土地に到着した。
「ここがニホンの方々に割り振られた土地です。」黙っているアルマンドに代わって騎士補が説明する。
「わざわざ、案内していただきありがとうございました。」
「命令されてやっているのだ。お前達のためではない。」後ろに立っている騎士補は相も変わらぬアルマンドに呆れた顔を浮かべる。
車の前で話をしていると、轟音を聞き付けた村人達が遠巻きに集まってくる。
「何を見ている、見せ物ではないぞ!」アルマンドは村人達に向かってズカズカと歩み寄る。
「申し訳ありません。」いかにも長老と言った立派な髭を生やした皺くちゃの老人が頭を下げる。
「あっ!あの怪物さっきの!」その後ろに控えていた少年が声をあげる。
「どうした?」長老は少年に先を促す。
「あの怪物、僕が森で猟をしてたとき見つけて、弓を射ったんだ!」少年は得意気に言う。
「お前、貴族たる私が乗っているにも関わらず弓を射たのか!」アルマンドは少年の胸ぐらを掴み、反対の手で顔面を殴る。小柄な少年は3メートルほど吹っ飛ぶ。
「貴族に弓を射つなど死罪だ!一家郎党皆殺しにしてくれよう。」騎馬隊の隊員達は倒れた少年を乱暴に掴み立ち上がらせる。
「待って、僕はそんなの知らなくて…」
「詫びの前に言い訳とは反省しとらん証拠じゃないか!」アルマンドは再び少年を殴る。
「まぁ、いいじゃないですか。今回は誰も怪我をしなかったわけですし、いきなりこんな物が現れたら驚きもしますよ。」見かねた自衛隊員が二人の間に割って入る。
「そんな訳にいくか!」
「我々が来たせいで人が死んだとなれば、両国間での友好にも影響が出ますし。」
「アルマンド様。」騎馬隊、副隊長もアルマンドを窘める。
「くそっ!分かった。」アルマンドは渋々といった風に震える拳を静かに下ろすのだった。
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航空自衛隊自衛隊 ルザール基地 (建設中)
平地の少ないこの国では、飛行場を建設できる場所は限られる。すでにある街を買い取り、港に近い場所飛行場を建設する案もあったが、最終的に少し離れたエビルス地方に建設することとなった。
「見たか、あれ?」荷降ろしをしている自衛官が言う。
「ああ、酷いもんだな。」
「まぁ、確かに人に向かって弓を射っといてお咎めなしっていうのも甘すぎるって気もするが。」
「だからといって放っておいて、死なれたらマスコミがまた騒ぐだろうな。ん、あれは?」自衛官はおずおずと近づいてくる長老に気付く。騎馬隊の隊員も一緒だ。
「あの…すみません。」長老は怯えたように、2人に話しかける。
「どうしましたか?もうすぐ作業を開始するので入ってきたら危ないですよ?」
「本日、歓迎の宴を村で催すのですがご出席していただけませんか?」
「お話は有り難いのですが、工事日程もありますし…。」騎馬隊の隊員は長老を肘で小突く。
「是非ともお願いしたいのですが。」2人は事情を理解する。
「私では判断できませんか、しっかり責任者に伝えておきますね。」
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「全く、歓待に酒の一つもないのか!」アルマンド肉を貪りながら村人達に憤慨する。
「申し訳ありません。そんな余裕ないもので…。」長老は怯えた表情を浮かべる。
「まぁいい、いい女さえいればな。」アルマンドは両側に侍らせた村人を抱き寄せる。村人は一瞬、不快そうな表情を見せたが、すぐに笑顔を取り繕う。
「この二人は予約済みですが、ニホンの方達もどうぞ遠慮なさらず。」騎士補が言う。
「いえ、我々は結構です。」
「まぁ、確かにこの二人以外は美人とは言えないが…。こいつとかはどうだ?服の上からでも大きさが分かるぞ。」騎馬隊、副隊長が給仕をしていた女性の胸を服の上から鷲掴みにする。
「いえ、我々は結構です。遊びに来たわけではないですから。」素っ気ない答に副隊長に皺を寄せる。
「ああ、そうか。食事も無くなったことだし宴はこれで閉会だ。そんなに仕事が好きならとっとと帰るんだな。」アルマンドが苛立たし気に言う。
「失礼します。」この後、貴族達は思い思いに夜を楽しむのだった。
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次の日の早朝、プレハブの宿舎に少年の姿があった。机を挟んで自衛官の姿もあった。
「ここに入ったらダメだって知っていたよね。」少年は何も話さない。
「なんで入ってきたの?」自衛官は重ねて聞くが、少年は何も話さない。
「黙っていても分かんないでしょ。」
「あんたらが、悪いんだ。」少年が呟く。
「あんたらが皆で貯めた冬越すための食糧まで食っちまうから、宝飾か金貨でも盗んでやろうって思ったんだ!僕は謝ってやんないからな!」少年は声を張り上げる。
「すまなかったな。」
「何であんたが謝るんだよ!」
「皆で貯めた食糧を食べちゃったからでしょう。」
「いや、食べたのは殆ど貴族の連中だしあんたらは別に…。」少年は予想もしなかった返答にしどろもどろになる。
「まぁ、なんとか上司に掛け合ってみるから今日は取り敢えず帰って。」
「帰っていいのか?」
「ああ。だが、長老さんには伝えておくからしっかり反省するように。」
3日後、宴のお礼として村に穀物が送り届けられた。このことは、村人から大いに感謝されるとともに、貴族から反感を買うことになる。
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