ルザール王国

ルザール王国 王城


「国王陛下、やはり日本軍を国内に駐留させることは反対です。」国王は、何度も繰り返される上申に諦めの表情を浮かべる。


「宰相、君も日本に外交官には会っただろう。アンゴラス帝国をも越える力を持つ国とは思えないほど、礼儀正しい人だった。日本からの要求も貿易の他は、この国から帝国を追い出すために使った軍事費とアンゴラス帝国攻略の足掛かりとなる基地用地の租借のみだ。どこかの帝国と違い非常に友好的で、なにより我々を解放してくれた恩人だ。」


「そもそも、アンゴラス帝国の駐留部隊の数は少数。我々の騎馬隊だけでも十分でした。」帝国の幹部に多額の賄賂を払うことにより、儀仗部隊として存続を許された実用性、練度ともに皆無の部隊を挙げる。


「確か、君の甥が隊長を勤めていたのだったな。」国王は宰相の露骨な身内引いきに呆れる。


「はい、忠誠心溢れる彼ならば必ずや帝国を追い出してくれ、ニホンへの譲歩も不要だったでしょうに。」宰相の眼を見る限り、本気で言っているようだ。


「まぁ、終わってからなら何とでも言えるがな。いずれにせよ、これは決定事項だ。変更はない。」


「仕方ありませんな、陛下。しかしニホンの監視も兼ねて騎馬隊を同行させることは認めていただきます。


「ニホンの軍が単独で道中や周辺の住民に出くわしたら怯えさせてしまうかもしれんしな。仕方ないそれは許可する。」


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この国の貴族は、幼い頃からいかに王家や貴族が国にとって重要で、貴なるものかを教えられる。そして特権意識が魂に刻まれ、身分卑しい者達は人でないかのように軽蔑する貴族ができあがる。貴族という制度がなく、皇家を除けば平民しかいない日本に対しても同様の目を向ける者も少なくない。その中で、王は珍しく物事を客観的に分析できる者であったが、彼に跪いている男、王国騎馬隊隊長、アルマンドは違った。


「アルマンド、ニホンが我が国のエビルス地方に基地を作るという話は聞いたことがあるな。」


「はい、宰相様が強く反対しておられましたね。結局、国領を奪われるような形になってしまい残念です。」国王は、アルマンドの言い方に苛立ちを覚えるが、彼の叔父が他の貴族連中に大きな影響力を持っていることが燃える彼の心を鎮火する。


「知っているならいい。お前には港から基地の建設予定地まで、ニホンの人達を案内してもらいたい。」


「案内、ですか?監視ではなくて?」すでに宰相から話は行っているようだ。自らの頭の上を飛び越されたことに、ますます苛立ちが激しくなる。


「そうだ。それに建設予定地の周辺には村がある。事情を知らない村人がジ・エイタイの方々に失礼をしたら大変だ。」


「はい、必ずや無事に送り届けます。」アルマンドは慇懃無礼にな仕草で王の間を後にした。


アルマンドは自衛隊による帝国掃討作戦が行われた日、領地での公務のため王都から離れていたので(逃げていたと言う者もいる)、自衛隊の姿を見たことがない。しかし、いくら相手が強大な力を持っているからといって 王国を侮られるわけにはいかない。王国騎馬隊は300年以上の伝統を誇り、人民からも尊敬を集めている(と隊員たちは思っている。)。その威容を新参者に見せつけてやろうと意気込むのだった。


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けばけばしいまで装飾が施された剣を携え、プレートアーマーに身を包んだ騎馬隊は王都の入口に位置する門の前で鎮座していた。それは威風堂々とした雰囲気を醸し出していたが、周囲で様子を窺っている王都民の目は冷ややかだ。アンゴラス帝国が跋扈しているときには息を潜め、帝国が日本に追い出された後、威張り散らすようになったのだ、無理もない。


「ああ、暑い。ニホンの連中はまだか?」暦は秋とはいえ日中は夏と変わらないくらい太陽が照りつける。さらにプレートアーマーが熱を吸収し、絶望的な暑さを生み出す。


「お水をどうぞ!」従卒がアルマンドに水が入った木筒を渡す。


アルマンドはそれを乱暴に受けとるとそれを飲もうとしたが、兜の面に当たり水が溢れ落ちる。隊員達は笑いを堪えようとするが、その努力は無駄に終わる。


「お前ら、笑うな!」アルマンドは部下を大きな声で怒鳴る。その直後、ブォーーン、ブォーーンと聞いたことのない音が響き出す。


「なんの音だ!」


その音は徐々に大きくなり、次第に地響きも伴うようになってくる。そして、開かれた門からそれが入ってくる。それはまさに怪物だった。巨大な手を持つ物、鉄の盾を前方に構えた物、長い首を持った物など様々だ。しかし一つ共通しているのは、それらが人間や馬などとは比べ物にならない圧倒的な力を持っているだろうということだろう。


「「ヒヒーーーーーン」」馬達は驚き、暴れ狂う。そして恐怖から逃れるために、主人を振り落として王都の通りを全力疾走する。


「あの、大丈夫ですか?」怪物から出てきた男は、アルマンドに手を伸ばす。


「大丈夫だ。」アルマンドはプライドから一人で立ち上がろうとする。しかし、アーマーが重くてなかなか起き上がれない。しばらくすると、従卒がわらわらと集まってきて、3人がかりで彼を起こした。


アルマンドは、改めて男の姿を観察する。突如として表れ、アンゴラス帝国を駆逐したニホン国。どのような者達なのだろうかと思案していたが、泥に汚れたような装飾一つない服を見れば野蛮としか言いようがない。文明も技術力も知れたものだろう。それでも彼等が帝国に勝てたのは、彼等の国ではあのような奇怪な生物が群生していて、使役できるからに違いない。


「我は、騎士アルマンドである!国王陛下より、貴官らの案内役を仰せつかった。我らがエビルスの街まで先導いたす。」汚ならしい格好をした男達は顔を見合わせる。


「我々の乗り物に乗って案内していただけるとばかり思っていたのですが?」自衛隊員は困った顔を浮かべる。


「我が騎馬隊には強靭で、勇敢で、速く走れる優秀な馬しかおらぬ。貴官らは、その能力を疑いになるか!」


「それで、その馬はどこに?」アルマンド達は顔を見合わせるのだった。


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結局、騎馬隊員数人が怪物に乗り込む運びとなった。全員は乗り切らないとのことで、騎馬隊員達は異様な怪物に乗る権利を紳士的に譲り合い(押し付け合い)、隊長、副隊長の他は下級貴族が乗ることとなった。乗り切らずに置いてきぼりにされる、隊員達はとても残念そうにしている。


恐る恐る乗ってみるが、奇怪な見た目とは裏腹に怪物の中は快適だった。夏だというのに涼しい。一体どうなっているのだか。少しすると、怪物の巨体が動き出した。


「しかし、この生き物はなかなか乗り心地の良いですな。我々も一頭欲しいぐらいだ。」彼等を褒めるのは本意ではないが、会話の糸口を探るためだと諦める。


「お褒めいただき光栄です。」自衛官は自らの愛車を褒められ笑顔を浮かべる。


「これを繁殖させれば我が国も安泰だ。どうだ、我々にも二頭ぐらい譲ってもらえないだろうか?」


「残念ですが、これは生物ではなく機械、道具ですので繁殖はできないんです。」


「これを!人の手で作ったというのか!」


「はい。さすがに中が空洞で、そこで操縦できるようになっている生き物などいませんよ。」


言われてみれば、その通りだ。なぜ今ままで気が付かなかったのだろう。アルマンドのプライドは技術力の圧倒的な敗北により早くも崩壊しかける。しかし、アルマンドはプライドよ修復のためあら探しを始める。


「しかし、面白いデザインの服ですな。」この国の貴族にとって、面白いというのは皮肉でしかない。しかし、自衛隊員はそんなこと露にも知らず、そのまま受けとる。


「そうでしょう。我が国は森が多いのでカモフラージュできるようになっているんですよ。」


「そんなもの、近づけば分かりそうなものだが。」


「近づけばそうかもしれません。ですけど今では相手に見つからないように長距離攻撃をするのが主流ですので。」


「しかし、そんな戦い方は卑怯ではありませんかな?」


「卑怯ですか?」


「そうだとも。そんな戦い方、騎士道精神に反する!」


「しかし、アンゴラス帝国は遠距離攻撃を行って貴方達の国を制圧したのではないですか?」


「黙れ!」痛いところを疲れたアルマンドは声を張り上げる。


「アルマンド様。我々は万一にも周辺住民がいざこざを起こさないために派遣されております。我々がそれを起こしてしまうのは本末転倒かと。」ついてきた騎士補がおぞおぞと発言する。アルマンドは彼を睨み付けるが、ばつが悪くなったのか到着まで口を開くことはなかった。


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