意思

軽快な音楽と共に東京の夜景を背景としたスタジオが映し出される。


「こんばんは。今日もニュース24hourのお時間がやって参りました。それでは早速、今日のニュースを見ていきましょう。」女性キャスターが原稿を読み上げる。


「物議を醸していた新テロ特措法ですが、午後5時20分に参議院本会議の賛成多数により可決されました。今回は法律アナリストの坂東さんにお越しいただいております。坂東さん、新テロ対策特別措置法とそれに基づく派兵は事実上の侵略行為を可能にすると批判が出ていますが、そのところをどうお考えでしょうか?」


「この法律は繰り返し日本に対しテロ行為を行うテロリストを制圧することを目的としたものであり、侵略には該当しないと政府説明にあります。あくまで政府はアンゴラス帝国を国家として承認しない方針を貫き通すようですので、インド洋やイラクへの自衛隊派遣を鑑みても今回行われるであろう派遣は特に問題はないかと。」


「しかし国会前でデモが行われるなど、派遣に反対の声が出ていることも事実です。そのところについてはいかがでしょうか?」


「アンゴラス帝国は、八丈島の島民数千人を殺したのですよ。それに、同盟国の市街地に艦砲射撃を敢行したようじゃないですか。正直、この情勢で反対するなんて頭の中にお花畑が群生しているとしか思えません。」


「派遣の詳細についてはまだ詳細は明かになってはいませんが、過去の派遣と違い今回は自衛隊が後方任務ではなく戦力として派遣されるは確実です。自衛隊との戦闘に民間人が巻き込まれる可能性もありませんか?」


「貴方は、命の価値は平等だと思いますか?」


「えっ?えーっと、そうじゃないですか?」


「それが、貴方の母親と貴方が一生知らないし関わらない人とでも?」


アナウンサーは押し黙る。


「私はね命の価値は距離によって決まると思うのです。」


「距離、ですか?」


「ええ、言い換えるなら自分とその人との関係性ですね。誰でも普通は、知らない人より家族や友人を大切にするものです。だから、私には分からないんですよね。同じ国の人々や、私達を守ってくれている自衛官より、違う国の、それも私達に害意を持っている人達を大切にする人達の心が。」


アナウンサーは一瞬ばつの悪そうな顔をするが、すぐに笑顔に戻る。


「ありがとうございました。次は似ているようで、全然違う!?新世界のフルーツのコーナーです!」


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日本国 首相官邸


新たな国々との交易が始まったとはいえ、前世界ほどの購買力が期待できるわけもなく経済は落ち込み、日本経済は不況に喘いでいる。いつもより暗い夜景に囲まれて、首相官邸は佇んでいた。


「総理、JAXAよりアンゴラス帝国の衛星写真が届きました。」防衛相は写真をテーブルの中央に置く。


「ようやくか。何ヵ月この時を待ったことか。」ようやく未知だった敵の正体について分かると、閣僚達は航空写真を覗き込む。


「惑星の半径が2倍以上も異なる上、重力も僅かに前世界とずれているようで時間がかかったそうです。おまけに小さな物体が衛星軌道上にあり、円軌道が取れなかったようです。」


「ここが日本、ここがアンゴラス帝国、そして首都と思われる都市はここです。」防衛官僚は旧世界のユーラシア大陸ほどの巨大な大陸を指差す。


「こんなに大きいのか。」総理は地図を見つめて呆然と言う。


「アンゴラス帝国は、2000隻以上の船を首都近郊の港に終結させております。」


「2000隻だと!」


「はい。当然ですが護衛艦の弾薬ではとても足りません。」防衛相が諦めたように言う。


「また在日米軍に頭を下げるか。」


「それで解決する数ではないでしょう。」総務相が言う。


「先月同盟を結んだルザール王国のセンランス島は、アンゴラス帝国の首都に比較的近いです。そこに飛行場を建てることが出来れば航空機により反復攻撃ができるかと。」防衛相が言う。


「そうか。しかし、肝心のミサイルが足りるのか?2000隻だぞ、2000隻!」


「何も高いミサイルを使わなくても、機銃や護衛艦の砲撃でなんとかならないのかね。」環境相が言う。


「珍しく意見が合いますね。この点については私も同感です。今までだけで戦費が4兆円に近いというのに。ミサイルのみによる殲滅は費用的に現実的ではないかと。相手が王政なら港なんて攻撃しなくても、飛行機から城に自衛隊をばらまいて王を確保してしまえばいいのでは?、」財務相が言う。


「城の内部構造も衛兵の数もが不明ですし、確保出来たとしても垂直離着陸機による脱出は現実的ではありません。それと、費用に関してですが、防衛省ではクラスター弾の使用を検討させております。木造のアンゴラス帝国の船ならば、火力はそれで十分ですし、港で密集している敵艦隊には特に効果的でしょう。飛行場の完成までには間に合うはずです。総理のご命令があれば、今すぐにでも生産を開始できる手筈は整えております。」防衛相が言う。


「クラスター爆弾!異世界に飛ばされたとはいえ、それが非人道的な兵器なのは変わらないはずだ!」環境相は激昂する。


「そんなことを言っている場合ではないでしょ。」総務相が言う。


「では、ルザール王国との交渉と基地建設、そしてクラスター爆弾の生産、配備を急いでくれ。」



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