混乱の王国

サンドール王国編おしまいです。次から日本が活躍します

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メーゼッタル伯爵領


せせらぐ川に挟まれたメーゼッタル伯の城では、その景観とは対照的に怒号が響いていた。


「なんだと!もう一回言ってみろ!」


「王城が革命により、落城しました。女王陛下の安否は不明。彼等はサンドール共和国を名乗り王都を占拠しています。」奉公に出ている青年が萎縮しながら言う。


「あの小賢しい女がいなくなったことには清々するが、生意気な平民どもには罰を与えねばな。」メーゼッタルは鼻を鳴らす。


「しかし王政府の軍をしりぞけたとなると、敵の数は非常に多いことが予想されます。我々の兵だけでは力不足かと。」代々仕えている年老いた下級貴族が言う。


「他の貴族に呼び掛けて、貴族連合軍を結成する。それしか活路はない。」


「本当に女王陛下が亡くなったのならば、王家は途絶え、貴族は次の王位を巡って政乱が起こるはずです。まぁ、我々も同じ穴のむじなですが。素直に応じるでしょうか。」


「まずは平民どもをなんとかせねばなるまい。案ずるな。共通の敵がいる間は憎み合っていても、協力できる。」


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サンドール王国、植民地ツェザール合同司令部


植民地となったツェザールには本来なら、総督が派遣されるはずであったが間に合わず、代わりに司令が全権を保持している。前例の無いことで、事務的な手間が各所で起こる。司令もその被害者の一人だ。そんな司令に急報が届けられたのは、夜が更け、業務がようやく終わり、酒に手を伸ばそうとしたときだった。


「それは本当か!」


「はい、司令。サンドール王政府は革命により消滅。そして、王都民はサンドール共和国を名乗り王都を占拠しています。」


「まずいな、王政府からの兵糧の支援が途切れることになる。まさか、革命を起こした連中が我々に好意的なわけもあるまい。」


「ツェザールが直轄植民地になったことで、我々は徴税権を付与されておりますが…。」


「ツェザールは鉱山地域だ。農業に期待せんことだな。」


「なら、どうすれば…。」


「面白い知らせを聞いた。この国の貴族どもが徒党を組んで王都に突撃するらしい。順当に行けば、貴族軍が勝つだろう。問題はその後だ。間違いなく政争が起こるだろう。」


「まぁ、そうなるでしょうね。」


「そこで、我々が有力勢力に肩入れして影響力を手に入れる。」


「しかし、貴族には我々が手も足も出ず敗走したことは知れているでしょう。首を縦に振ってくれるでしょうか。むしろ日本の方を向く可能性も…。」


「日本とサンドール王国は同盟国ですらない。国交を樹立し、交渉し、あとやるべきことは幾つある?人間は目の前の利益にありつきたがる物だ。数はあまりにも少なくなってしまったが、きっと我々の力を欲しがる勢力がいるはずだ。」司令は心配ないと、部下を安心させるかのように笑うのだった。


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革命当日 王家直轄領 ローミルダ


反乱鎮圧のためローミルダへ向かっていたライアン含む下級兵団は、道中で補給をしつつ、とうとう目的地へ到着した。遠くに見える街には木製の簡素なバリケードと、包丁や石を棒にくくりつけただけの槍を携えた人々が見える。アウグストさんから何も聞いていないあたり、この反乱は我々の組織が与していない自然発生的なものなのだろう。


「騎士様、こいつらを皆殺しにした後…」山賊頭が下品な笑みをこぼしながら隊長である騎士に話しかける。


「ああ、女は好きにしろ。ただし、財の4割は国庫に入れることを忘れるな。」騎士は諦めたように言う。騎士は気持ちを入れ替えるように少し間を置き深く息を吸う。


「突撃しろ!愚かな者どもを蹴散らせ!」


「「おおーー!」」男達は、街に立て籠る人々へ濁流の如く向かっていく。その姿は軍隊とはかけ離れた統制のない野蛮な突撃だが、寄せ集めの我々には丁度いいのかもしれない。


「ライアン!何をしている!」上の空だったライアンを騎士が叱責する。


「すみません。考え事をしていて。」ライアンは急ぎ足で街へと駆ける。


本当なら彼等の仲間として軍とは名ばかりの山賊どもと戦いたい。しかし、それはできない。アウグストさんから命令がない限り、この兵団の一員として振る舞い、情報を上げ続けなければならない。そんなことを考えながら、ライアンは山賊どもと共に街の内部に入っていく。先頭の方では、すでに戦いは始まっている。


先頭から少し離れたところで悶々としていると、横道から男が粗製の槍を片手に飛び出してくる。


「すまない、より多くの人を救うためだ。恨まないでくれ。」ライアンは槍を剣で切り落とし、返刃で男の首を切り落とす。


「くそぉ、何しやがる!この人でなしが!」また一人、ライアンに男が突きかかってくるが、難なく男を切り捨てる。その骸に一人の少年が母親の制止を振り切り走り寄る。


「お父さん、お父さん!返事してよ!ねぇっ!」怨嗟の籠った少年の目がライアンに向けられる。いや、少年だけではない。血塗れになり、完全に沈黙している男達の家族全員が同じ目をしている。


お願いだ。そんな目で私を見ないでくれ。自分勝手なのは分かっているが、そんな思考が頭をよぎる。


少年は泣きながら、ゆっくりと立ち上がる。そして、父親の武器を手に取り


「「父さんの仇!」」


と叫びながら、ライアンに槍を突きだそうとする。


しかし、まともに武器を扱ったこともない少年が勝てるわけもなく、切り伏せられる。


「本当にすまない。せめて。天国で家族と幸せに過ごしてくれ。」


既に街には生きた男の姿はなく、女と子供が残るのみとなっていた。その末路は、いつもと同じであった。


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私が革命が成功したと知ったのは、革命の3日後。王都に帰還した時だった。山賊どもと王都民が揉めていたが、噂を聞き付け、武器を持った市民がわんさか出てくると、散り散りになり逃げていった。一部は、王政府に与した者は敵ということで殺されたりもしたが。


さて、私は革命において重要な役割を果たしたとして幾つかの重役に推薦された。しかし、どれも丁重にお断りした。私にはその資格がない。同じ志を持つ者を見殺したばかりか、自らの手で幾人も殺し、そして、それが何の意味も為さなかった。目を閉じても、目蓋に少年の視線がこびりついて、離れない。彼に、いや彼等に謝りに行こう。ライアンはロープを首にかけ、台から飛び降りた。

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