サンドール王国の門出

サンドール王国 王城前広場


前日までは広場から優美な城が見えていたが、今や城は焼け焦げ、基礎と剥き出しの柱が点々と残るだけになっている。


「そんな!アウグストさんが!」


「はい、城の廊下で焼死体となって発見されました。」


「そんな!これからだというときに。」


「一体誰がこの国をまとめていけばよいというんだ!」頼れるリーダーを失ったことで革命軍、そしてそれに協力していた王都の人々は混乱していた。


「10年後に予定されているという選挙、それを臨時処置として、王都にいる住民で実施すればよいのではないか?」とある商人が言う。


「我々の王を我々の手で選ぶ。この国の門出に相応しいじゃないか!」その隣にいた商人も同調する。


「そうだ、そうしよう!アウグストさんの理想を我らの手で実現するんだ!」斯くして、第一回サンドール共和国議会選挙は一定以上の税金を納めた王都民の投票により、行われる運びとなった。


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数日後


王城前広場


広場の中央に設置された演説台上の周りには、王都民全てをかき集めたかと思える程の人が集まっていた。ゆっくりと男が壇上に上がる。


「皆さん、初めまして。サンドール共和国、初代首相を拝命しましたエゴンと申します。私は今までこの国を少しでもよくしていきたいと、孤児院を運営や施療院を設立を行ってきました。しかし、私がいくら努力しても状況は改善しなかった。なぜか。それは、この国が腐りきっていたからです。いくら枝を手入れしても、根元が腐っていればどうしようもない。」


商業ギルド長であったエゴンはそこで言葉を切ると、民衆を見渡す。


「我々は、多くの血と引き換えに自由を手に入れた。しかし、我々は戦い続けなければならない。我々のことを気に入らない貴族達から家族を守らなければいけないからだ。諸君、もう少しの辛抱だ。私とともに歩み続けよう!」


「「オーーー」」歓声が上がるとエゴンは満足そうに微笑むのだった。


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回想 革命当日 王城


「アウグストさん、ここを曲がれば王の間です。」


近衛兵との戦いでアウグストの部隊は大きく人数を減らし、僅か6名が残るだけとなっていた。


「やはり、増援を待つべきではないですか?」


「いや、それだと女王に逃げられる可能性がある。それに近衛兵との闘いの後、敵にまともな抵抗はない。もう、敵の戦力は払底しているのだろう。よし、行くぞ!」アウグストは扉を勢いよく開け、部屋の中に飛び込む。


「これは…。」王の間は、炎と煙で覆われていた。


「どうしましょう?」


「王女の生死が分からんのが惜しいが、今は逃げるぞ!」


「はい!」アウグスト達は踵を帰し、来た道を戻る。そして、一行が鏡の間まで戻ると、そこには一人の少女が立っていた。血の臭いが充満するこの城には似合わない光景に、アウグストは不気味さを覚える。


「お久しぶりです。アウグスト様。」メイドはまるで周りの死体が目に入っていないかのように、屈託のない笑みを浮かべて言う。


アウグストはしばらく記憶を辿り、ようやく答えへ辿り着く。


「えっと、君は確か…。エゴン殿のところのメイドだったか。」


「覚えていてくださり、光栄です。」


「君も、革命軍に参加していたのか?」革命軍は、基本的に男性が中心だが、僅かながら女性も参加していた。


「はい、少々ながら武芸の心得があるもので。ところで、皆様がここに来るということは女王様が死んだということでしょうか?」


「いや、火の手が上がり王の間は煙で何も見えなかった。逃げる前に炎を放ったのか、心中のつもりか分からんがな。」


「そうですか。」


「君も早く逃げた方がいい。」


「その様ですね。」アウグスト達が歩を進めると、メイドはアウグストの後をついて行く。歩幅が合わないので、小走りのようになっている。


「グギャ!」


「ヒグッ!」叫び声がしたかと思うと、革命軍の男達が床へと倒れる。


「どうした!」アウグストが振り向くと、二人の部下が血まみれで倒れている


「この糞ガキ!何してやがる!」残った男達は剣をメイドに向けようとするが、その前にナイフが男達の首に刺さり、男は音もなく崩れる。


そして、アウグストは自らの体にもナイフが深々と刺さっていることに気付く。


「なぜ、こんな…ことを…。」アウグストは呻くように言う。


「命令だからです。」メイドは明るい声色を変えずにで答える。


「エゴン殿の…なぜ。私なんかを殺しても、今や何の意味もない…。」


「エゴン様は、自らが首相?でしたっけ。国のトップの役職になるおつもりであられました。それに貴方が邪魔だったというだけです。どうもアウグスト様にはどうも御自身を過小評価される癖があるようですね。貴方は今や絶大な影響力を持っているというのに。」


「しかし、私を殺してもエゴンが首相になれるとは…。」アウグストがそう言うと、メイドはクスリと笑いながら答える。


「それがね、なれるんです。」


「私が死んだときの行動も…革命軍の仲間には伝えてある。私が死んでも…一足早く選挙が行われるだけだ。」


「エゴン様が、革命軍の支援と引き換えに出した条件を覚えていらっしゃいますか?」


「確か…。」


「そう、選挙に参加できるのは一定額以上の税金を納めている者だけです。商人ギルドを通して、彼等に便宜を図る代わりに投票を呼び掛けました。」


「だが、地方や貴族領にも富豪や地主はいる…。王都の商人だけでは、十分な数には…ならないはずだ。」


「今の革命軍の影響力が届くのは王都のみ。それで十分です。まぁ、たとえ国全体で選挙を行うことになったにせよ、立会人や管理人が買収されるのが落ちでしょうが。」


「あっ、そうそう。酒場で働いていた王都一番の美女、誰だっけ。彼女も私が殺したのですよ。本当、男って単純ですね。女が死んだだけだっていうのに、餌に群がるゴキブリのように革命軍に集まってきて。虫酸が走ります。まぁ、そのお陰で王政府が十分な数の練度の高い兵がそろう前に行動を起こせたのですがね。」メイドは今までの表情を変え、皮肉気に笑う。


「私を殺したら…いくら貰えることになっている?」アウグストは言った後で、最後に質問することでもないと気付く。


「お金なんて貰えませんよ。」メイドはアウグストを馬鹿にするかのように、地面に伏している彼を見下ろす。


「なら…、なぜこんなことを?」


「私ね、孤児だったんです。そこをエゴン様に拾われたんです。」


「そんなの、ただ利用されているだけじゃ…。」


「そんなの分かっています。ただ、私には偽物でも居場所が必要だったんです。長話が過ぎましたね。では、終わりにしましょう。」


「グァーーーー」 メイドがナイフを奥に押し込み、それを回すと、耳をつんざく叫び声が響く。しかし、それはすぐに止む。


「さて、そろそろお暇しましょうか。」メイドはナイフを引っこ抜くと、燃え始めた部屋を後にした。

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