サンドール王国の終焉 11
サンドール王国 王城 廊下
「ドリャ!」男は剣を振るうが、カキンという高い音とともに盾に弾き返される。
「フンッ!」次は兵が剣を振る。剣は有り合わせの防具しか装備していない男の体を容易に切り裂く。
狭い廊下に盾を並べた近衛兵相手に、いままで数の暴力に任せて敵を倒していた反乱軍は苦戦していた。そして、近衛兵の前には反乱軍の死体が散乱している。
「ここを突破したら王の間だというのに!アウグストさん、どうしましょう?」
「ここに集合するように他の部隊には伝えたのか?」
「はい、ただ散発的に戦闘が発生しているらしく撤退に時間がかかっています。」敵の統制が執れていないうちに敵を各個撃破するため分散していた反乱軍だが、それが仇となっていた。
「私の判断ミスだな。」
「そんなこと…。」
衛兵隊は盾を構えつつ、じりじりと滲み寄ってくる。その際、転がっていた死体の一つが踏みつけられ、千切れかけていた腕がとれる。
「くそっ!」
「身の程を弁えぬ愚か者ども、楽に死ねると思うな!突撃!」
近衛兵が走り出そうとしたその時、反乱部隊の後ろより大きな物音が響く。それは、規則的で少しずつ大きくなっていく。
「アウグストの坊っちゃん、待たせたな。」現れたのは攻城鎚を引っ張って来るのに使った馬と、その御者であった。
「貴方は戦闘員じゃない!訓練を受けていないどころか、武器すら触ったこと…。」
「つれねぇこと言うんじゃねえよ。若いもんが頑張ってるってのに、安全な所で待っているだけとあっちゃ肩身が狭いってもんよ。なぁに、俺にはこのジョセフィーヌちゃんがいりゃ十分だ。」馬はそれに答えるかのように鼻息を鳴らす。
「しかし…。」
「もし、お互い生き延びれたら一杯奢ってくれや。」御者はそう言うと、盾の列へと向かっていく。近衛兵は馬を迎え撃とうとするも、剣が短く、対応出来ずに盾ごと吹き飛ばされる。何人かの近衛兵が、通り抜けて行った馬を追おうとしたこともあり陣形は大きく乱れた。
「今だ、突撃!このチャンスを無駄にするな!」
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王城 王の間
王城の調度は資金調達のために少しずつ減っていっていたが、この部屋だけはそれを免れていた。部屋には女王ローザ、軍務卿、そして女王直属の衛兵カルリーノが居た。他の大臣がいないあたり、逃げたか殺されたのだろう。
「ひぃ!陛下!陛下!賊が鏡の間を突破しました!賊はすぐそこまで迫っています!」近衛兵の戦いの偵察に向かった兵が扉から飛び込んで来る。
「なんだと!この無能が!近衛兵は何をしていた!」軍務卿が吠えるが、そんなことをしても状況は変わらない。
「王の間が突破されれば、もうここです。」
「敵は所詮平民だ。下級兵団が後から奇襲をかけさえすれば、烏合の衆に成り下がる。」ローザはなかなか到着しない援軍に歯ぎしりしながら言う。
「陛下!第5下級兵団が、城と反対に進んでいます。」次は、塔の上で見張りをしていた兵が駆け込んでくる。
「何だと、あいつら逃げる気か!」ローザは机に拳を打ちつける。
「所詮は山賊だったというわけか。忠誠心の欠片もない屑どもめ。」
「陛下、もうこの城はだめです。脱出しましょう!」軍務卿は少し間を置いて、提案を切り出す。
「何を言っているのです?この城から逃げる?こんな時に冗談なんて言わないでください。」 今まで側に控えていた近衛兵、カルリーノが発言をする。
「兵ごときが私に話しかけるでない!それに逃げるのではない、脱出だ!いつか必ず再び…」
「貴族たるもの、いつかは消える命より名誉を重んじるべきです。」カルリーノは軽蔑の表情を浮かべながら、軍務卿を睨む。
「貴様、正気か!死んだら全て終わりではないか!陛下、今すぐ脱出すべきです。」軍務卿は涙目を浮かべながら言う。
「陛下、ここで逃げれば後世まで王家は卑怯な臆病者として笑い者にされることでしょう。」カルリーノは、ローザを見据える。
静かになったことで、徐々に近づく死の足音がよく聞こえるようになる。もう、敵はすぐそこまで来ているのだ。それがローザは本当の死の恐怖を、始めて意識させることになった。
「私は…、嫌だ…。死にたくない…。死にたく…。」ローザはあまりもの恐怖に、細かく震え出す。
「そういうことだ。では、陛下こちらへ。」軍務卿は、ローザに慇懃無礼な笑みを浮かべるが、そのまま固まり、バサリと音を立てて倒れた。
「カルリーノ、何を…何をしている?」その背後には、血で濡れた剣を握ったカルリーノが立っていた。
「私は最後まで信じていました。いや、信じようとしていたと言った方が適切ですね。」
「カルリーノ…?」
「昔から、陛下のことは存じ上げておりました。私が父から剣術を学んでいる時、いつも遠くから覗いて真似をしていましたよね。それに、図書室で私では到底理解できない本を一生懸命読んでいた姿も拝見しておりました。」
「何を言ってるの…カルリー…?」
「そのお姿を見ていたので、どんなに貴族や民を処刑しようと陛下は自分の命を投げ捨ててでも守るべきお方なのだと疑い無く信じることができていました。しかし、人間は生と死の狭間に立たされると本性を表すというのは本当ですね。あなたは死の名誉より、恥辱にまみれながら生きることを望みました。」カルリーノは燭台に手を伸ばす。
「陛下、最後まで誇り高くいらしてください。」
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