サンドール王国の終焉 10

サンドール王国 王都


いつもなら闇に沈んでいるはずの王都の西地区の通りは、人で溢れていた。各々は決意を胸に刻み、真剣な眼差しを城に向けている。


そこに一台の馬車が到着する。


「最後の武器が届いたぞ!丸腰の奴は取りに行け!」


「荷台を外して破城鎚を付けるぞ!手伝え!」馬車の荷台を改造しただけの粗野な破城鎚が、馬に装着される。


「アウグストさん、全てのメンバーがそろいました。」


「そうか。正直こんなに早く決起できるとは思ってもなかったよ。」アウグストは感極まったというように、集まった仲間達を見渡す。


「これだけの人員をあんな短期間で集めるとは、エゴン殿には感謝しなければなりませんね。」


「どんな見返りを要求されるのだろうな。いや、今は目の前のことに集中しなければ。」アウグストは大きく息を吸い込み、演説を始める。


「我々は長らく虐げられてきた。アンゴラス帝国と、女王に。しかし今やアンゴラス帝国は瓦解し、あの女の後ろ楯はなくなった。必ず女王を討ち、家族と自由を守ろうじゃないか!」


「オォーーー」民衆は歓声を上げると、手に握った剣を掲げた。


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王城 見張り台


武骨な塔の上には、2人の兵が酒を飲みながら見張りをしていた。


「そういや、今日の街は何だか明るいな。」基本的にサンドール王国民は太陽と共に生活する。灯りが勿体ないからだ。


「西地区の辺りだな。全く、輸入が途切れてあらゆる物が値上がりしているこのご時世に、あれだけ灯りを灯せるなんて羨ましい限りだ。」


「んっ?あの灯り城に向かってきてねぇか?」


「城のパーティーか何かに誘われてんだろう。貴族連中も毎日毎日よく飽きないもんだ。」


「それなら前もって連絡が来るはずだが?」


「伝達ミスだろ?」


「一応、報告に行った方がいいのか?」


「そんなことして、酒が入ってることがばれたら大目玉だぜ。」


「隊長、おっかねぇもんな。」


「馬車も来てるようだし、豪商かなにかだろ。」


「まぁ、いいか。大丈夫そうだし。」


アンゴラス帝国に占拠されて以降、300年間攻められることの無かったこの城は、地方で暴動が起こる今であっても緩んだ空気を纏っていた。


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王城 門


双眼鏡などという文明の利器がこの国にはないので、上からは遠くてよく見えないだろうが、下からはそうはいかない。凄い形相で、槍や剣を携え迫ってくる集団が好意的なものでないのは一目瞭然だ。


「お前達、何をしている!」門番の3人が槍を構え、集団へと近づいて行く。


「うぉりゃーー!」集団は一斉に走りだし、門番へと迫る。


「グギャ!」数の暴力を一身に受けた門番の体は、原型を留めないほどに散らかっている。


「ヒィーー!」残った二人は、懸命に走り門の向こう側へと逃げようとする。しかし


「閉門だ!門を早く閉めろ!」城門はゆっくりと閉められていく。


「待ってくれ、まだ俺がいる!俺が…」ノックと悲痛な叫びは数秒後には止んだ。しかし、代わりに違う音が響きだした。


「せーの!」掛け声と共に鎚が振り下ろされ、城門が軋む。再度鎚が扉に下ろされ、鈍い音が響く。


「俺は軍務卿に報告してくる。お前らは扉を押さえておけ!」門番長はそういうと、逃げるようにして走り去っていく。


「隊長!ずるいっすよ!」


鎚が振り下ろされる度に、閂が悲鳴を上げる。そして


「ボギッ!」と鈍い音がして、閂が二つに割れる。濁流のように人が流れ込み、扉を押さえていた兵達も自分達が見捨てた兵と同様の運命を辿った。


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女王の私室


「こんな時間に起こすとは何事だ!」女王ローザはつまらない用なら殺すと言わんばかりの目を軍務卿に向ける。


「ローザ様!賊が城門に現れました!」ローザは目を見開く。


「何だと!」


「一体どうすればよろしいでしょうか?」反乱防止のため、自分の頭では何も考えられない無能を軍務卿としたが、一刻を争う時にまで自分で何もできないとは。


「さっさと衛兵を集結させろ!下級兵団にも出撃命令を出し挟撃するんだ!」


「はい!」


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「進め、進め!」単発的に敵兵に出くわすこともあったが、まだ初動ができていないのだろう。圧倒的な人数差を生かして反乱軍は鏡の間にまで難なく進んでいた。


「一端ここで待とう。後が着いてきていない。」アウグストは仲間達を見やる。


「何言ってるんですか?敵が体勢を整える前に攻撃した方がいいじゃないですか?」


「それもそうだが、間者からの地図によると…」


「いいじゃないですか。」男は大きな扉を開け放つ。そこには、大盾を一列に構えた近衛兵が待ち構えていた。


「ありゃまぁ。」


「平民ごときが、いくら集まろうとも無駄だということを見せてやれ!」


「一端引くぞ!」アウグストは男の手を掴み、仲間と合流すべくもと来た道を辿るのだった。

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