サンドール王国の終焉 7

サンドール王国 王都 役場


王城を出てすぐの所にある役場は、飾り窓が特徴的な小さいが美しい建物だ。しかし職員の性格は正反対だったりする。


「兵士への志願か。どうせ文字は書けんのだろう?とっとと名前を言え。余計な仕事増やしやがって。」よく肥えた役人が苛立たし気に言う。


「いえ、書けます。」男は用紙とペンをひったくると、ライアンと記入欄に書くき込む。役人の顔が赤くなる。


「平民風情が役場の備品に触るな!汚れるだろ!」


「それはそれはすみません。」


問答しながらも手続きは進み、小一時間ほどでライアンは解放された。


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王都 第3下級兵団駐屯地


ローザによる政変の結果、多くの貴族が没落、粛清され王都の貴族居住区のあちこちが空き家となった。その一部が新設された部隊の駐屯地として連れて使われている。第3下級兵団もその一つだ。庭は訓練場に改装されているようだが、人は殆どのいない。


ライアンは酒を飲みながら駄弁っている門番に着任状を見せると、挨拶のため部隊長の部屋へと向かう。


「本日より、第3下級兵兵団に配属となりましたライアンです。よろしくお願いします。」


「まともに挨拶をしてくれる兵は久しぶりだな。第3下級兵団隊長のパラントだ。よろしく頼む。分からないことがあったらなんでも聞け。」


「ありがとうございます。ところで、門番が昼間から飲んだくれていましたが大丈夫なのですか?」ライアンは転がっていた大量の酒瓶を思い出す。


「山賊か盗賊あがりの連中だろう。うかつに注意もできんのだ。」パラントは力無さげに項垂れる。


「なぜです?」


「略奪や虐待、強姦を咎めた部隊長は決まって次の戦いで戦死するのだ。人数的にも部隊内での山賊の力が強すぎる。とてもじゃないが注意などできん。」


「そんなことが行われているのですか?」知っていたことだが、ライアンは驚いた風に見せる。


「お前もそれが目当てで入ってきた質たちではないのか?」


「いえ、私は争いが続くこの国を平和にしたいと思って…。」


「なら、すぐに軍を辞めた方がいい。まともな人間には、この仕事は酷すぎる。」


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一通りの挨拶が終わりライアンは割り当てられた部屋へと向かう。かつて使用人の個室だった部屋に、8人の男が詰め込まれるそうだ。ルームメイトに恵まれるといいなと思いながら扉を開けると2人の男が居た。


「よう、新人。」独特の髪型をした男がライアンに近づく。


「こんにちは、これから宜しくお願いします。」


「おい、新人手ぶらか?先輩への挨拶に何も持ってこなかったのかよ!」スキンヘッドの男がライアンに詰め寄る。


「すみません。金がないものでして。」


「どれどれ、確認してやる。」スキンヘッドの男は、ライアンのリュックを乱暴に広げる。火つけ石や調理器具など、旅の道具床にが散らばる。


「くそっ、本当に何もねぇしゃねぇか!」独特な髪型の男はライアンのポケットに手を突っ込む。


「んっ!なんだこりゃ?」


「待てっ、それは…」


「こりゃ指輪か?高くつきそうだな。」


「返してください!それは、母親のっ…」


「うっせぇ!」男は持っていたビール瓶でライアンの頭を殴る。辺りにガラスの破片が散らばる。


「さて、何本の酒になるか。しっかり掃除しとけよ。」男達は部屋から出ようと扉へ向かうが、ライアンに背を向けたことが仇となった


「手前ら、いい加減にしやがれ!」ライアンは立ち上がると、勢いそのままスキンヘッドの男にアッパーを入れる。


「何しやがる!」髪型の男はライアンに殴りかかるがあっさり避けられ、膝蹴りを喰らう。男は踞り、飲んだばかりの酒を逆流させる。


「手前!これを頭が知ったらどうなるか分かってるだろうな!」


「まだやる気か?元気がいいな。」


「くそっ!覚えてやがれ!」男二人はそう言うと、ふらつきながら部屋から出ていった。


「これ、誰が掃除するんだよ。」部屋には吐瀉物の臭いがたちこめていた。


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月光に照らされ、真っ黒な森の中に不気味な屋敷が浮かび上がる。その地下では反乱組織のリーダー、アウグストが報告を受けていた。


「アウグストさん、ライアンが潜入に成功したようです。」


「それは良かった。あいつは賢いし剣の腕も確かだが、正義感が強すぎて融通が効かないからな。心配してたんだ。」アウグストは安堵のため息を漏らし、安物のワインを口に含む。


「しかし、初日から喧嘩騒ぎを起こしたそうです。」アウグストはワインを噴き出す。


「あれほど問題を起こすなと言ったのに!」


「取り敢えずの情報として、彼が所属する第3下級兵団の情報が来ています。」


「次の接触の時、くれぐれも、くれぐれもおとなしくしておけと伝えてくれ。」


「分かりました。」アウグストはこめかみを押さえ、苦悶の表情を浮かべるのだった。

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